人形たちの壮絶な攻防が続く。
しかし、どんどん少年は劣勢になっていく。少年は分かっていた。物質操作魔法で戦っていては、必ず負けるということを。
オリジナルであるテイマーに、少年は遠く及ばない。
水人形の動きは岩人形より遅いし、水人形が岩人形を殴っても元が水ではあまりダメージを与えられない。
そう、負け戦なのである。
少年が、ただの物質操作魔法士ならば。
人形たちの壮絶な攻防が続く。
しかし、どんどん少年は劣勢になっていく。少年は分かっていた。物質操作魔法で戦っていては、必ず負けるということを。
オリジナルであるテイマーに、少年は遠く及ばない。
水人形の動きは岩人形より遅いし、水人形が岩人形を殴っても元が水ではあまりダメージを与えられない。
そう、負け戦なのである。
少年が、ただの物質操作魔法士ならば。
一次魔法起動式ロード
コード:AC 加速魔法
起動式ホールディング
命令式入力可能
いつもの少年なら、迷わず起動していただろう。
しかし、いつでも起動できる状態なのに起動しない。
少年は戦っているのが、まるで自分ではないような浮遊感に苛まれていた。
劣化版が、オリジナルに勝てるわけないじゃない!
圧倒的な優勢に、テイマーが高らかに言い放つ。
少年の思考は急速に冷めていった。
二体いた水人形の片方が岩人形に破壊され、ただの地下水に戻る。
命令式入力確認
加速魔法 発動
一次魔法起動式ロード
コード:MS 硬化魔法
発動
通常演算領域容量オーバー
加速魔法 強制終了
少年は水人形に加速魔法をかけて岩人形の裏を取らせ、それと同時に硬化魔法を起動する。
演算の容量オーバーのため、少年の脳は自動的に必要なくなった加速魔法を終了させた。この機能により、少年はほぼタイムラグなく硬化魔法を発動させる。
少年の操る水人形が岩人形を破壊した。
テイマーの顔が困惑に染まる。
どうして! 物質操作魔法士は他の魔法を使えないはずなのに! それも同時に一次魔法を発動するなんて……無理よ! ありえない!
そもそも魔法は、一次魔法と二次魔法に分類される。
一次魔法士の脳に埋め込まれた、拡張演算領域における比較的簡単な演算で発動できる一次魔法。
これには、加速減速・加熱冷却・硬化軟化・遠視・幻視などが含まれる。
一次魔法士はこれらの魔法のいくつか得意なものを使うことができる。
そして、二次魔法士が持つ、専用の魔法演算領域における複雑な演算を必要とする二次魔法。
これには多種多様な魔法があるが、複雑な演算が必要である為に二次魔法士は決められた一種類の魔法しか使うことができない。
何の魔法演算領域を持たされるかで何の魔法が使えるかが決まる。
閑話休題。
物質操作魔法は一次魔法であるが、その演算の複雑さは二次魔法に匹敵する。
つまり、テイマーは一次魔法士であっても物質操作魔法しか使えないのである。
しかし、少年は違う。
特殊二次魔法士と銘打たれて開発された少年は、普通の魔法士と違い、遺伝子レベルで一から構成された。
その脳のほとんどは魔法式の記憶・演算・魔法制御に使うようプログラミングされている。
そのため一次魔法と二次魔法を組み合わせて使用したり、様々な二次魔法を使用したり、一次魔法をいくつか同時に発動したりできるのである。
そのせいで感情や自発的な行動が制限されてしまっているのは言うまでもない。
これは軍事機密で、テイマーも知らない事実だった。
騙すつもりはなかったんだが、結果的には騙すような形になってしまったな
少年は氷のように冷たい声で言葉を紡ぐ。
いつの間にか岩人形はすべてただの岩に戻っていた。
こ、このっ、動け! 動いてよ!
複雑な演算が必要な魔法の発動は不安定だ。
精神的に追い詰められていたり、身体的に疲れていると発動しなくなる。
テイマーの呼びかけも空しく、魔法は反応しなかった。
これで、終わりだ。
水人形がテイマーを蹴り飛ばした。
地面に打ち付けられ、転がった先にはとがった岩。勢いよく衝突したテイマーの身体には、深々とその岩が突き刺さっていた。
血の池がだんだんと広がる。
最後の仕事が終わったと心なしか満足げに水人形は地下水となり、地面に吸い込まれていった。
少年がゆっくりとテイマーに近寄る。
私、ね……君が色々な魔法使えるの、知ってたよ……。ごめ、ね……なにもしてあげ、なく、て……でも、よか……た……。
どう、して……。
とぎれとぎれに語るテイマーは、笑顔で逝った。今までで一番満足そうな笑顔。
少年には理解できなかった。
なのに何故か、涙が一筋、少年の頬を伝った。