少年は何も言わず部屋を出て行った。
行け。詳細は後で送る。
少年は何も言わず部屋を出て行った。
軍の建物を出て、ひと気の少ない路地裏で詳細が送られてくるのを待つ。
不意に視界中央に地図が表示された。
地図にはテイマーの位置が赤い点で表示されている。
馬鹿な奴だ
逃走するのなら、軍の監視カメラの死角を通ればいい。それだけで位置の特定が難しくなる。
しかしそのテイマーは、そうしなかった。
この場所は、いつものところだ。
視界上の地図を消して少年は走り出す。
テイマーのいる場所は、少年がよく知っている場所だった。
様々な花が咲き乱れる中に、一人の女性がぽつんと立っていた。
脱走したテイマーだ。
やっぱり、君か。
TO-01を発見、任務を開始する。
殺人人形と呼ばれるのも、わかるわね。
少年の声は冷たく、これから一人の人間の命を奪うというのに、何の感情も込められていなかった。
呆れたように、悲しそうに。テイマーは言った。
君にも感情はあるのに。あいつらにそう思わされているだけなのよ。でも、私じゃ何もできなかったね。
貴女に何かしてもらった覚えはない。
そうね、私が勝手に君をここへ連れ出して。勝手に話をしていただけ。
テイマーは軍の中で唯一少年を人として扱い、優しく接する人間だった。
よくこの花畑に少年を連れ出してはあれこれ話をした。それは「感情が無い」という少年に何とか感情を取り戻させようとする努力の表れだ。
でも、あの時間は無駄じゃなかったと思うの。君は殺そうと思えばいつでも私を殺せるのに、そうしない。それに……君、今すごく悲しそうな顔をしてる。
少年は無意識に自分の顔に手をやった。
しかしすぐにまた無表情に戻る。
「無駄話をしすぎた」と言って少年は臨戦態勢をとった。
待って、少し移動しましょう。ここじゃ、戦いにくいでしょ? 君も。
少年は「こっちよ」と先導するテイマーの後を、適度に間隔をあけて追った。
連れてこられたのはどこにでもある荒原だった。岩が多く、物質操作魔法の使い手としては戦いやすい場所だ。
ここでいいよ。
テイマーの周りの岩が動き出し、何体かの大きな岩人形を形成した。
「簡単にはやられないよ」と言いたげに、岩人形たちはファイティングポーズをとっている。
一次魔法起動式ロード
コード:TM 物質操作魔法
発動
少年はテイマー唯一の魔法だった物質操作魔法を展開し、岩場の地下に流れる水を取り出して水人形を作る。
岩に水では物質の結合強度的に圧倒的に不利だが、少年は岩よりも扱いやすい水を選択した。いや、選ばざるを得なかった。
それは、少年がオリジナルではないからだ。少年はオリジナルであるテイマーの劣化版でしかない。
それでも、物質操作魔法は唯一ではなくなる。
それだけでテイマーの価値は大幅に下がるのだ。
君も、使えるのよね……もう。
テイマーは悲しそうな顔をして、岩人形に命令を出した。
少年も水人形を動かし、応戦する。
魔法と魔法がぶつかり合う――