熱い炎に包まれる。

 情熱の炎か革命の炎か。

 願うことは、いとしい人が無事でありますようにと。

  

  



  

それは恋だねぇ

 迷わず辿り着けた叔母の家。

 暖炉で温められた部屋で、焼きたてのパンと温かい紅茶を一緒に食べるのは至福の時間だった。

恋?

 物語で何度も出てきた魔法の言葉。

 自分がそんな魔法にかかるなんて思っていなかったし、叔母に言われた言葉だとしても、実感はなかった。

フェミリアももう14歳だ。そういうのがあってもいいねぇ

わたしがそんなの……

いいんだよ、恥ずかしがらなくても

 そう言われても、嬉しそうな叔母の表情にフェミリアの顔が尚更熱くなる。

やめてよ叔母さん。そんなんじゃないから

うふふ

もう……

 これが、恋……

 夢の中にいるような、そんな気分にもなっていく。

 だけどこれは現実だった。

 あの人を想えば、魔法にかかったように心が軽くなっていくのを感じていた。







  

 あの男性が誰なのか、気になって夜も眠れない日々が続いた。

あの方は今どこで何をやっているのでしょう? 会ってお礼を申し上げたい

 もう一度会いたいと思う。

 どこにいるのか分かれば、自分から会いに行けるのに。

 部屋の窓から星空を見上げる。

 幾度か星が流れていった。

はぁ……

 ため息が漏れる。

 想えば想うほど、心の奥が切なくなる。

 これが恋なのね……

 突然玄関のドアが叩かれる。

どなたかしら?

 夜中であるにも関わらず、深く考えず無防備にドアを開けると、知らない男が2人立っていた。

フェミリアだな?

えぇ、そうですが……?

 こんな時間に何の用でしょう?

 フェミリアが質問する間もなく、男たちはフェミリアの両サイドに立ち塞がった。

今から連行する

れ、連行!? え、きゃっ!

 男たちは強引にフェミリアを抱えると、問答無用で馬車の中へ押し込んだ。




 

 連れてこられたのは知らない場所だった。

 この町にこんな場所があるなんて全く想像もしていなかった。

 石の壁や床は氷のように冷たく、鉄格子がはめられている様はまるで牢獄だった。

ここは……?

 フェミリアは呆然と座り込む。

 こんな場所に連れてこられるようなことを、何かしでかしただろうか?

 全く身に覚えがなかった。

 暗く冷たく、一歩踏み出すだけで大きな音が響く。

 これからわたしはどうなってしまうのでしょう?

 突然連れてこられて、わけが分からない。

わたしが一体何をしたというのでしょう?

 途方に暮れていると、遠くから鉄を打ち合うような音が聞こえてきた。

……!

 まさか、助けが来たのだろうか。

 先日も自分を助けてくれた、名前も知らない男性の顔が脳裏に過ぎる。

 フェミリアの胸は期待で高まり、鉄格子を両手で握り、耳を澄まして音の成り行きを見守った。

 やがて音は止み、足音が駆けてくるのを感じる。

あぁ、先日のあの人がまた助けに来てくれた……!

 フェミリアの胸が高鳴ったそのとき――

助けに参りました

 聞いたことのある声。

 笑顔のその男を見た瞬間、フェミリアの表情は凍りついた。

……!

我が妻、フェミリア

 そこにいたのは……

ラッド様……

 自分を奪おうとした、最低な男だった。






 

 どこに向かっているのか全く分からない。

 馬車の中はガタガタ揺れてお尻が痛くなるものだが、さすがお金持ちの馬車、揺られているのは分かるのに、体には全く響かない。

披露宴はいつにしましょう?

……

あぁ、各地から貴族たちを招き寄せねば。奴ら、さぞ驚くでしょう。こんなきれいな方を娶ったなんて

……

奴らの悔しがる姿が浮かび上がってくるようですぞ

……

 ラッドが楽しそうに会話する中、フェミリアは黙り込んでいた。

どうされました? 気分がよろしくないので?

……

無理もありません。あんなところに閉じ込められていたのですから

お伺いしてもよろしいですか?

 フェミリアがやっと口を開くと、ラッドは嬉しそうに目を輝かせた。

えぇ、何でも聞いてください

わたしはどうして捕らえられたのでしょう? 身に覚えが全くありません。ラッド様なら何かご存知でしょうか?

 フェミリアの問いには答えず、ラッドの目は不気味に光っただけだった。

そんなことよりも式の方が重要です。フェミリアはどんなドレスを着たいので? こんな美しい女性です、お金もつぎ込んで豪華なドレスを用意させましょう

 話が通用しない。

 ラッドはフェミリアの意思はまるっきり無視し、自分一人だけの世界に酔っている。

 フェミリアは感づいた。

 思えば、助けが来るのは異様に早かった。

あぁ、この人に仕組まれたんだわ。

そんな手に引っかかるわたしではないのに。馬鹿にされているのかしら?

楽しそうにひとりでしゃべり続けるラッドを横目にフェミリアは誓う。

わたしは、こんな人と添い遂げはしない。

 いくらお金があっても、わたしはこんな人と一緒にはなりたくない。

 フェミリアは心に誓った。

 肌身離さずつけていた夢見のペンダントをそっと握りしめる。




 

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