光に包まれる夢を見た。

 とても心地よくて愛おしい。

 この感情を、なんて呼ぼう。

 

 





   

 家の前の花壇を手入れしていた。

 今は赤い花を咲かせたい気分だった。

 咲いている花を植え替えたり新しく種をまいたり。

 それはフェミリアの日常だった。

 

 きれいな花を咲かせたい。

 そんな思いを込めて、如雨露で水を撒く。

 郵便屋さんが走ってくるのが見えた。

フェミリアさん、お手紙ですよ

わたしに?

えぇ

 手紙を受け取ると、郵便屋さんは次の家へ向けてすぐに走っていく。

 金箔入りの封筒。今までこんな高価な封筒を受け取ったことがない。

 裏を見ると、丁寧な文字が並んでいた。

……パーティー開催のお知らせ?

 何かの間違いだろうか。

 しかし、宛名は間違いなくフェミリアのものだった。

 封を切って中を開ける。

 フェミリア様

 ○月△日に、我が屋敷にてパーティーを開催致します。
 是非ご参加いただきたく、招待状を贈らせていただきました。
 お越しいただくのを心よりお待ちしています。
                    
ラック・バート

ラック・バート……さん?

 名前だけは聞いたことがある。

 確か、この町でお屋敷に住むほどの富豪のひとり。

どうしてわたしなのでしょう?

 間違いかもと思うが、何度確認しても自分宛の手紙。

困りました

参加してご挨拶だけしよう。

 フェミリアは美しい娘だが、高貴な身分というわけでもなかった。

 普通の娘ならこういう招待状は喜ぶものかもしれないが、フェミリアにはあまり興味がなかった。

 
 
 
 

 パーティー当日、フェミリアは時間より5分遅れていった。

 アクセサリーの類は控えめにしておいた。

 主役は自分ではない。

 初めて訪れるパーティーは、高貴そうな身分の方々でいっぱいだった。

 彼ら彼女らはみんなワインを片手に談笑している。

 場違いだと思い、すぐにでも出て行きたい気分になったが、グッとこらえた。

すみません、ラック・バートさんはどちらの方でしょう?

 執事らしき人物に話しかける。

あなたは?

失礼致しました。わたしはフェミリアと申します。

フェミリア様。ラック様はこちらです

 執事に案内されて着いていくと、高貴な身分の男性が2人、ワインを片手に談笑していた。

 身なりがまず違う。

 フェミリアはこの場にいるのが申し訳ない気分になった。

 フェミリアに気付いた2人が会話を止め、振り向いた。

ラック・バート様、フェミリア様をお連れしました

 執事が2人のうち1人に恭しく頭を下げた。

 フェミリアも遅れまいと頭を下げ挨拶をした。

ラック・バート様、わたしはフェミリアと申します。本日はお招きありがとうございました

あなたがフェミリア様ですね。噂で美しい娘と聞いておりましたが、本当に美しい

 ラックは気さくに話しかける。

いえ、そんな……

もう少しするとダンスが始まります。よかったら一緒にどうですか?

 ラックは気安く誘うが、こういう場に慣れていないフェミリアは困ってしまった。

ダンスなどしたことがありません。あいにくですが……

なら私が教えましょう

 ラックがフェミリアに近づき、抱き寄せる。

 男性経験などないフェミリアは思わず抵抗するが、より強い力で抱きしめられた。

あ、あの……

見れば見るほど美しい。私の妻にしたいくらいです

こ、困ります!

おや、他に意中の男性などいたりするのですか?

いえ、そういうわけでは……

なら、決まりです

 いつの間にかホールの証明が薄暗くなり、曲が始まった。

 リズムに合わせてラックがダンスを踊りだす。

 フェミリアはリードされるまま慣れない足取りでダンスを踊った。

 ……どうしよう。

 フェミリアの頭の中は混乱していた。

 こんな急に妻だとか言われても困る。

 曲が終わりに近づき、一段と照明が暗くなった。

フェミリア……

……!

 ラックの顔が近づいてくる気配がする。

 い、嫌だ……!

助けて……!

 心の中で強く願ったその瞬間――

 何かが派手にぶつかる音がして、フェミリアの身は自由になった。

明かりをつけろ!

 誰かが叫ぶ。

 明るくなったホールには、ラックが倒れ、給士の台車から食べ物や高価な食器が飛び散っている様があった。

何をやっている!

ラック様! 大丈夫ですか!?

あぁ! ラック様、申し訳ございません!! 暗くて前が見えなくて……!

言い訳はいい!

 ホールは急に騒がしくなった。

    

さぁ、今のうちに

 誰かがフェミリアの手を取って走り出す。

 フェミリアも夢中で走った。



 

ここまでくればもう大丈夫でしょう

 ラッドの屋敷から出て、大分走った。

 男性が辺りを見回し、安全なことを確認するとホッと息をつく。

 フェミリアも走り続けて乱れた呼吸を整えた。

あ、あの、助けてくれてありがとうございます

お礼なんていりません。困っているあなたを放っておけませんでした

失礼ですがお名前を

名乗る名前は持ち合わせておりません。……それでは

 背の高く、紳士的な男性だった。

 立ち去るその姿を、フェミリアはしばらく眺めていた。

……

 顔が熱くなるのを感じる。

 男性に助けてもらったのは、初めてだった。






   

 ここ数日、彼のことが頭から離れなかった。

 そんなある日、ラック・バートから使者が届いた。

ラック様が貴女をお屋敷に招待したいと

申し訳ありませんが、お断りします

 フェミリアははっきりと言った。

 今までの自分では、こんなにはっきりと意思表示は出来なかっただろう。

 だけど、助けてくれた男性のことを想うと、自分もしっかりしなくてはと思う。

そう申されましても、ラック様は貴族。貴女とは身分が違います。断ればどうなるかわかりませんぞ

脅しですか?

忠告です

お引き取りください。わたしはラック様のお屋敷には行けません

 フェミリアが強く言うと、使者は諦めていった。

……

 強い風が吹く。

 胸に着けている夢見のペンダントをギュッと握りしめた。

神様、どうかわたしをお救いください



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