発砲音。
発砲音。
ああ、もうっ!
舌打ち。
まったく傷つく様子のない敵の姿に、キリシアは悪態をついた。
弾ももうなくなるつーの!
GARUUUUUUUUUUU
うるさい!
しかし、まあ、ここでおしまいかしら
心が諦めかけたとき、
キリシア先生!
フィリス!
駆け寄ってきたフィリスの姿を見つけると、モンストロ・マンガース・マギオから距離を取り直す。
できたの?
はい
クリスは?
離れててもらってます。私、さすがに呪文覚えきれなかったから。魔法陣だけ、覚えてきました
言って右側の髪を耳にかける。
通信用の魔具、教室にあったの借りてきちゃいました
右耳につけられた、白い羽の魔具。
これなら、WC粒子の消費量、少なくてすむからね
そこから、クリスの声が聞こえる。
ここに二人キリシア先生の迷惑になると思ったし
それに、見せたくなかったら。水晶になっていくところを
そう
キリシア先生、あと少しだけ援護をお願いします。唱え終わるまで
わかった
言ってキリシアはもう一度、モンストロ・マンガース・マギオに発砲した。
クリス、お願い
うん、……フィリス
なおも何か言いかけたクリスを、
信じてるから
その言葉で遮る。
……俺も
声の調子で、苦笑しているのがわかった。
じゃあ、いくよ。復唱して。ニー・エスペル・アルモズペチ・チエ
ニー・エスペル・アルモズペチ・チエ
手が覚えてきた魔法陣を描いていく。
ケ・リイミガス・ラ・コムパチンダ・ベスト・マギ・ラ・マギオ
ケ・リイミガス・ラ・コムパチンダ・ベスト・マギ・ラ・マギオ
すぐ近くで聞こえる、クリスの声に意識を集中させる。
ティウセレ・ミアン・コルポン・サンガンテ・クリサロ
ティウセレ・ミアン・コルポン・サンガンテ・クリサロ
これを逃したら、もう当分聞けなくなってしまうから。
ポル・ポロテキ・ラ・ポポロ・ヴィ・アマス
ポル・ポロテキ・ラ・ポポロ・ヴィ・アマス
大好きな、この人の声が。
エストンテコン・デ・アマトジン
エストンテコン・デ・アマトジン
でも、
アモ・エスタス・ケ・ヴィ・エスタセ・ティエ
アモ・エスタス・ケ・ヴィ・エスタセ・ティエ
最後じゃない。
最後ではない。
ミ・アルポロトソ・アモ
ミ・アルポロトソ・アモ
信じてる。
彼が、助けてくれること。
再び、会えること。
だから、
シゲリータ!
シゲリータ!
怖くないっていたら、嘘になるけど。でも、怖くない。
目の前の、モンストロ・マンガース・マギオの姿が消えていくのがわかる。
フィリス!
嬉しそうに振り返ったキリシアの顔が、直後歪んだ。
フィリス?!
自分の体が、どんどん動かなくなっている。
キリシア先生、あとで軍の人に怒られちゃうかな。ごめんなさい
キリシアが駆け寄ってくる。
クリス、聞こえてる?
かろうじて、まだ声はでた。
うん
私、できたよ
うん、フィリスならできると思ってた
クリスの呪文だからね
動けなくなってしまうのならば、一番綺麗な私でいたい
微笑む。
クリス、またね
フィリスっ!
泣きそうな声が最後に聞こえて、そこでフィリスの意識は途絶えた。