発砲音。

キリシア

ああ、もうっ!

 舌打ち。
 まったく傷つく様子のない敵の姿に、キリシアは悪態をついた。

キリシア

弾ももうなくなるつーの!

モンストロ・マンガース・マギオ

GARUUUUUUUUUUU

キリシア

うるさい!

キリシア

しかし、まあ、ここでおしまいかしら

 心が諦めかけたとき、

フィリス

キリシア先生!

キリシア

フィリス!

 駆け寄ってきたフィリスの姿を見つけると、モンストロ・マンガース・マギオから距離を取り直す。

キリシア

できたの?

フィリス

はい

キリシア

クリスは?

フィリス

離れててもらってます。私、さすがに呪文覚えきれなかったから。魔法陣だけ、覚えてきました

 言って右側の髪を耳にかける。

フィリス

通信用の魔具、教室にあったの借りてきちゃいました

 右耳につけられた、白い羽の魔具。

クリス

これなら、WC粒子の消費量、少なくてすむからね

 そこから、クリスの声が聞こえる。

フィリス

ここに二人キリシア先生の迷惑になると思ったし

フィリス

それに、見せたくなかったら。水晶になっていくところを

キリシア

そう

フィリス

キリシア先生、あと少しだけ援護をお願いします。唱え終わるまで

キリシア

わかった

 言ってキリシアはもう一度、モンストロ・マンガース・マギオに発砲した。

フィリス

クリス、お願い

クリス

うん、……フィリス

 なおも何か言いかけたクリスを、

フィリス

信じてるから

 その言葉で遮る。

クリス

……俺も

 声の調子で、苦笑しているのがわかった。

クリス

じゃあ、いくよ。復唱して。ニー・エスペル・アルモズペチ・チエ

フィリス

ニー・エスペル・アルモズペチ・チエ

 手が覚えてきた魔法陣を描いていく。

クリス

ケ・リイミガス・ラ・コムパチンダ・ベスト・マギ・ラ・マギオ

フィリス

ケ・リイミガス・ラ・コムパチンダ・ベスト・マギ・ラ・マギオ

 すぐ近くで聞こえる、クリスの声に意識を集中させる。

クリス

ティウセレ・ミアン・コルポン・サンガンテ・クリサロ

フィリス

ティウセレ・ミアン・コルポン・サンガンテ・クリサロ

 これを逃したら、もう当分聞けなくなってしまうから。

クリス

ポル・ポロテキ・ラ・ポポロ・ヴィ・アマス

フィリス

ポル・ポロテキ・ラ・ポポロ・ヴィ・アマス

 大好きな、この人の声が。

クリス

エストンテコン・デ・アマトジン

フィリス

エストンテコン・デ・アマトジン

 でも、

クリス

アモ・エスタス・ケ・ヴィ・エスタセ・ティエ

フィリス

アモ・エスタス・ケ・ヴィ・エスタセ・ティエ

 最後じゃない。
 最後ではない。

クリス

ミ・アルポロトソ・アモ

フィリス

ミ・アルポロトソ・アモ

 信じてる。
 彼が、助けてくれること。
 再び、会えること。
 だから、

クリス

シゲリータ!

フィリス

シゲリータ!

 怖くないっていたら、嘘になるけど。でも、怖くない。
 目の前の、モンストロ・マンガース・マギオの姿が消えていくのがわかる。

キリシア

フィリス!

 嬉しそうに振り返ったキリシアの顔が、直後歪んだ。

キリシア

フィリス?!

 自分の体が、どんどん動かなくなっている。

フィリス

キリシア先生、あとで軍の人に怒られちゃうかな。ごめんなさい

 キリシアが駆け寄ってくる。

フィリス

クリス、聞こえてる?

 かろうじて、まだ声はでた。

クリス

うん

フィリス

私、できたよ

クリス

うん、フィリスならできると思ってた

フィリス

クリスの呪文だからね

フィリス

動けなくなってしまうのならば、一番綺麗な私でいたい

 微笑む。

フィリス

クリス、またね

クリス

フィリスっ!

 泣きそうな声が最後に聞こえて、そこでフィリスの意識は途絶えた。

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