ペンを走らせていたクリスが、舌打ちまじりに吐き棄てる。
邪魔にならないように少し離れたところで見守っていたフィリスが、慌てて駆け寄った。
……だめだっ
ペンを走らせていたクリスが、舌打ちまじりに吐き棄てる。
邪魔にならないように少し離れたところで見守っていたフィリスが、慌てて駆け寄った。
だめって……
だいたいはできたんだ。だけど、封印する物がないと。それも、それなりの魔力があるものじゃないと
キリシア先生はもともと水晶に封じられてた、って言ってたよね
ああ。見たことないからわからないが……。多分、魔力性の水晶だったんだな。それに値する物が、ここにはないっ
だんっと拳を机に叩きつける。
……そんな
遠くで銃声が聞こえる。
だけど、センはできない提案はしないって言った。……嘘をついているっていったらそれまでだけど。でも、今はそこを疑っている場合じゃない
必死に頭を働かせる。考えることは苦手だけど、そんなことを言っている場合じゃない。
何かを水晶に変えるしかないよね
ああ。だけど、ただの水晶じゃだめだ
そこに、魔力を与えないと……?
ああ。でも、実際問題、今ここにあるWC粒子じゃ、封印させるので精一杯だと思う
……そうだね
大気中のWC粒子の濃度がかなり薄くなっているのは、魔導師の体感として理解できる。
じゃあ、なにか、もともと魔力のあるものを変化させるしかないってことよね……
だけど、そんな都合のいいもの……。学内にある魔具は練習用だから、たかが知れてるし
高い魔力……。元からあって…‥
そこまで考えて、フィリスはひらめいた。
ひらめいて、しまった。
……クリス
ん?
私が、……なる
え?
それを言うことに、ためらいがなかったと言ったら嘘になる。だけど、それしかないから。
私が、あれを封印する水晶になる
……なにを言ってっ!
だって、これしかないっ!
クリスの言葉を遮る。
クリス、やるやらないは別として教えて。私が水晶化したら封印は可能? 私の、魔力なら?
それは……
一瞬口ごもり、何かを思案するように視線を宙に彷徨わせたが、
可能、というか、悔しいけど適切だと思う
なら
だけど、そんなのダメだっ!
でもっ
ダメに決まってんだろっ! フィリスがいなくなるなて、そんなの……認められるわけないっ
ぐっと両肩を掴まれた。
フィリスがそんなことするなんてだめだ。やるなら、俺がやる。俺がなる
……クリス
肩に置かれた手に、そっと自分の手を重ねる。
でも、残念だけど、ダメだよ。言いたくないけど、クリスは適任じゃない
躊躇いがちに、でもはっきり告げられた言葉にクリスの顔が歪む。
自分でも、わかってるでしょう?
……それは
魔法がうまく使えない、魔力の低いクリスだと封印するのに適した水晶にはなれない。
……だけどっ
ごめん、私、これがベストな選択だと思う
怒っているようにも、泣きそうにもとれるクリスの顔。そんな顔がさせたいわけじゃない。でも他に、思いつくことがない。
フィリス
ぐっと肩を引き寄せられ、次の瞬間抱きしめられてた。
わっ、クリス?
好きなんだ
耳元で言われた言葉に、こんなときなのに心臓が跳ねた。
ずっと、フィリスのこと、好きなんだ。……だから、嫌なんだ。フィリスがいなくなるなんて。俺が、守れないなんて
……クリス
両手をそっと、クリスの背中にまわす。
ああ、こんなときなのに。どうしよう。すっごい嬉しい
私も……
え?
私もクリスのこと、大好き
フィリス
顔を上げると、困った顔をしているクリスと目があった。
ねぇ、だから、わかるでしょ? 私も、クリスが守れないの、すっごくやだ
……だけど
このままだと、全滅だよ。守る方法があるのに、何もしないなんて、私、嫌だ
クリスは何かを耐えるかのようにしばらく黙ってフィリスを見つめていたが、
……約束、する
やがてはっきり告げた。
え?
絶対、助ける。すごく、待たせちゃうかもしれないけれど、絶対に。あれを倒して、フィリスを元に戻す
しっかりと目を見て言われた言葉に、
……うん、待ってる
頷いた。
だから、フィリス。そのあとさ
どこか照れたように目をそらすと、
俺と付き合って
……はい
予期せぬ言葉に戸惑って、それでも断る理由なんてあるわけなかった。