キリシア

しっかしまあ、どうしようかしらね。救援くる気配もないし

 ちらりと教室の前の時計を見る。

キリシア

こんなに遅いなんて、なんかあったとしか思えないわね

クリス

軍でも事件があったとか?

キリシア

っていうか、送った緊急コール、妨害されて届いてなさそうね

 言いながら、白衣のポケットから小さな端末を取り出す。

クリス

……そこにどんだけ入ってるんすか

キリシア

あー、やっぱりダメだわ。妨害されてる。WC粒子も少ないしね

 ため息。

キリシア

となると、どうしようかな

クリス

外に直接出て応援を呼びますか?

キリシア

残念だけど、あれの封印が解けた時点で、この建物から外に出ることはできなくなっているの。外からこっちにはでれるけど。あれを外に出すわけにはいかないでしょう?

クリス

そこまで厳重にやってるのに、なんで封印が解けるんですか!

キリシア

知らないわよっ

フィリス

……誰かが、わざと封印を解いたってことですよね?

キリシア

そうね。あれはもともと、この学園の秘密の地下室に封印されていたの。水晶を媒介にして。それを知っているのは、軍のお偉いさんと、学園のお偉いさんと、私みたいに派遣される人間だけ

フィリス

……あと、あれを封印した人ならわかりますよね?

キリシア

何百年前の話だと思ってんの? 死んでるわよ、そいつ

クリス

フィリス、いくら魔法史が苦手だからって……

フィリス

……でも、作った方なら

クリス

え?

フィリス

あれを作った、魔法史上最大のテロリスト

 思い出す。昨日あれだけ眺めていた教科書。
 フィリスの言葉に、二人もぴんっときたかのように顔を見合わせる。

クリス

不老不死の、魔法を使った犯罪者

キリシア

生きていて、封印を解いても不思議じゃないっ

クリス

名前は……

フィリス

センデクミィル!

クリス

センデクミィル!

 フィリスとクリスの声がハモる。
 そして、ぱちぱちぱちと、場違いな拍手の音。

セン

ご明察

フィリス

セン?!

 いつの間に現れたのか、教卓に腰掛けてセンが微笑んだ。
 その不審さに、キリシアが迷わず銃口を向ける。

キリシア

あなた、まさか!

セン

そう、センデクミィルは僕だよ

フィリス

なっ

 センの方に一歩足を踏み出しかけたフィリスをかばうように、クリスが前に立つ。

クリス

本気で言っているのか?

セン

事実だからな

 くすりとセンが笑い、小さく何かを唱える。

フィリス

きゃっ

 光が教室を満たす。

 次に目をひらいたときには、

フィリス

……セン

 その姿が変わっていた。

クリス

なんでこんなことをっ

センデクミィル

僕の崇高な目的は、君たち魔導師にはわからないよ

フィリス

わかるわけないっ! どんな理由があろうとも、あんなにたくさんの人を殺してっ! エレナだってっ!

 センは何も言わず小さく微笑んだ。
 教室の外で、唸り声が近づいてくる気配がする。
 キリシアが一瞬、視線を外に向けた。

センデクミィル

賭けをしようか

 
 優雅な口調で、センが提案する。

クリス

賭け?

センデクミィル

君たちがモンストロ・マンガース・マギオを封印できたら、僕はおとなしくここから立ち去るよ

フィリス

封印って……

キリシア

その方法を知っているのは、軍の上層部だけなのに?

センデクミィル

考えればわかるはずだよ。だって魔法だろ? なあ、クリス

 クリスは答えず、睨みつけた。

センデクミィル

僕はできない提案はしないよ、それじゃあ賭けにならないからね。キリシア先生がモンストロ・マンガース・マギオを食い止める。その間に、クリスが封印の呪文を考えて、フィリスさんがそれを使う。僕は何もしない。ただ、見ているだけ。悪い条件じゃないだろう?

キリシア

だからって、この子たちにそんな

センデクミィル

他に選択肢があるっていうの?

 事実を指摘されて言葉に詰まった。

フィリス

……わかった

 少しの間のあと、フィリスが頷いた。

クリス

フィリス!

フィリス

他に方法がないのならば、やるしかない

 手が震える。それでも、

フィリス

ここで逃げたら、エレナに会わす顔がない。それに、クリスまでいなくなっちゃう。そんなの、絶対だめ

 震える手をどうにかおとなしくさせようとすると、

フィリス

……あ

 その手をそっとクリスが握った。

フィリス

クリス?

クリス

……そうだな

 その手も小さく震えてる。

クリス

他に、方法がないのなら

 それでも、力強く言い切った。
 それを見てセンが小さく微笑む。

センデクミィル

うん、それじゃあがんばって

 言ってセンが姿を消す。

キリシア

……あなたたちは、勝手にっ!

 キリシアが悲鳴のように言葉を発するが、

キリシア

あーもう

 一度舌打ちすると、銃を構え直した。

キリシア

これしか方法がないのは認める。でもいい? さっきも言ったように、死んだら許さないからね!

フィリス

はい

クリス

わかってます

キリシア

できるだけ頑張るけど、あんまり期待しないで。……任せた

 言って、教室から外へ出て行った。
 直後、発砲音が聞こえる。

クリス

……とはいえ、どうしたもんかね

 適当な机から、ノートとペンを拝借するとクリスは苦々しく呟いた。そこに魔法式を構築し始めていく。

クリス

多分、時間はかかるけどある程度は組み立てられる

 ノートに書かれていく言葉の意味が、フィリスにはわからない。

クリス

だけど、合っているかどうか、試してみないとわからない

 小さく付け加えられた言葉に、

フィリス

……合ってるよ

 思わず、言葉が滑り落ちた。

クリス

え?

フィリス

クリスが作る魔法だもん、合ってるよ。信じてる

 顔をあげたクリスに目線を合わせてしっかりと続ける。

クリス

……フィリス

フィリス

信じてる

 驚いたような顔をしていたクリスだったが、もう一度告げると、

クリス

うん

 しっかりと頷いた。
 そのままもう一度、ノートに向き直る。

クリス

……フィリス

 そのまま手は止めずに、

クリス

多分、これから俺がつくるのってすっごくややっこしいものだし、使う人の技術がいると思う。だけど

 そこでフィリスの顔をしっかりと見つめ、

クリス

信じてる

 さきほどのフィリスと同じように、告げた。

クリス

フィリスなら、できるって

 真剣な顔に、

フィリス

……任せて

 しっかりと頷いた。

フィリス

クリスのこと信じてる。だから、クリスが間違ってないことを証明してみせる

 できることは、それしかないのだから。

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