移動した先は廊下で、フィリスに押し倒されるように床に倒れたキリシアが、

キリシア

何考えてんの!

 怒鳴りながらフィリスを突き飛ばした。

キリシア

危ないでしょうが! なんでついてきちゃうの!

フィリス

エレナの仇を討ちたいっ!

キリシア

あのねぇ、フィリス。気持ちはわからないでもないけどっ

クリス

フィリス

 クリスも困ったように名前を呼ぶ。
 だけど、納得できなかった。

フィリス

友達の、ことなのにっ

キリシア

有事の際に逃げ込むべき行動で、なんで生徒の魔法が使えないかわかる? あのこの学園で一番安全な鳥かごで、あなたたちを絶対に守る為なの。それは、あなたたちの魔法じゃ、あれに対応できないってことよ

フィリス

でも……

キリシア

それに、私たちにもできないの

フィリス

え?

キリシア

あれは封印することしかできない。倒すことはできない。悪いけど……

 次の瞬間、背後から聞こえた唸り声に三人そろって振り返った。

キリシア

来やがった

 キリシアが舌打ちすると、ガーターベルトにつけていた銃を抜き、発砲。

キリシア

一旦引くわよっ! 早く行って

クリス

フィリスっ!

 クリスがフィリスの手を引くと、走り出す。
 キリシアの手から続く、発砲音。

フィリス

あ……

 角を曲がるとき一瞬、黒い影が見えた。

 空き教室に滑り込むと、一旦鍵をかけた。

キリシア

はー

 ドアに寄りかかって、キリシアが大きく息を吐く。

キリシア

やってらんないわ

クリス

センセ、それ

 クリスがキリシアの手の中にある銃を見て呟く。

クリス

なんだってそんな古い武器を……

キリシア

あれは、WC粒子を食べるの。知らないわけじゃないでしょう? WC粒子が枯渇するわけじゃないけど、一時的にこのあたりの濃度が低くなる。っていうことは

クリス

魔法が使いにくくなる

キリシア

そう。あれを封印するために、残しておかないと

 言って、クリスと、クリスに手を握られたまま俯いているフィリスを見る。

キリシア

だから、悪いわね。あなたたちを講堂に戻すわけにはいかないわ。思ったより、WC粒子の濃度、低くなっているし

クリス

……それはまあ、ついてきちゃったの俺たちですから

キリシア

まあ、そうよね

 そこまで会話して、二人は俯いたままのフィリスを見た。

クリス

フィリス、……大丈夫?

フィリス

……クリス、キリシア先生

クリス

ん?

フィリス

ごめんなさいっ!

 そのままぐっと頭を下げた。

フィリス

私、勝手なことして。迷惑かけて。本当に、ごめんなさい!

クリス

……フィリス

キリシア

本当よね

 キリシアのトゲトゲしい声が飛んでくる。

クリス

ちょ、センセ

キリシア

テンパってたのはわかるけど、だからって許せないレベルよ、これ

フィリス

はい、すみません

キリシア

ごめんで済んだら私たちは警察はいらないの

クリス

センセ、そこまで言わなくてもっ

キリシア

生き死にかかってんのよ、甘ったれるんじゃないわよ

 一喝されて、クリスも黙る。

キリシア

でもまあ、過ぎたことはしょうがないわ。一つ、約束なさい

フィリス

はい

キリシア

死ぬんじゃないわよ

 近づいて二人の顔をまっすぐみるとキリシアは続けた。

キリシア

この状況であんたらにまで死なれると、私、始末書じゃすまないから

フィリス

……はい!

クリス

わかりました

 素直に頷く二人を見て、キリシアは少し満足そうに笑った。

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