キリシア

……で、たんこぶ作ったってわけね

 翌日。学園の救護室で養護教員のキリシアが、クリスの頭を治療しながら呆れたように言った。

クリス

だって、こーんな分厚いの投げるのはなしでしょ、センセ

キリシア

先に投げたのはクリスの方なんでしょ?

クリス

それは、あいつが変なこというから!

キリシア

恋の鞘当てで喧嘩なんて、青春ねー

 言いながらも左手は魔法陣を描き、

キリシア

トラクターボ

 呪文を唱える。

キリシア

はい、できた

クリス

ありがとう、センセ

キリシア

どういたしまして。君も不便ねー、これぐらい自分で治せればいいのにね

 痛いところを突かれて言葉に詰まる。

キリシア

この学校の養護教員なんて基本暇でしょうがないのよねー。みんな、自分で魔法で治しちゃうから

クリス

……どうせ俺は回復系苦手だよ

キリシア

あらあら、落ち込んじゃった? ごめんね

 言いながらキリシアは机の上から飴をとると、

キリシア

はい、元気だして

クリス

子供じゃないんですが……

キリシア

いらないの?

クリス

……もらっておきます

キリシア

うん、いい子

 微笑んで頭を撫でられた。

クリス

この人も、掴みどころないんだよなー


 フィリスは学園の廊下を、足取り軽く歩いていた。

フィリス

ちょっとこれは、及第点とれた気がするー!

 追試の手応えがいつになくあったのだ。フィリスにしては、レベルで。

フィリス

なんか悔しいけど、ちゃんとクリスにはお礼言わなくっちゃ

 そう思って探しているんだけれども、なかなか姿が見えない。

フィリス

あ、セン!

 少し前を見知った姿が歩いているのを見て呼び止める。

セン

フィリスさん

フィリス

クリス、見なかった?

セン

救護室ですよ

フィリス

え、なんかあったの?

セン

たんこぶができただけです。自分で治すこともできなんだから

 嘲笑うようにセンが言う。

フィリス

……そっか。しょうがないなー

 ひとまず行ってみよう、とフィリスが歩き出すと、

セン

フィリスさん

 呼び止められた。

フィリス

ん?

セン

クリスの、どこが好きなんですか?

フィリス

なっ!

 真顔で問いかけられた言葉に、一瞬で身体中の血液が顔に集まったのがわかる。

フィリス

なにそれっ

セン

魔法をうまく使えない、クリスのどこが好きなんですか?

 畳み掛けられる。
 冷静な言い方に、少しカチンっときた。

フィリス

確かに、クリスは全然魔法使えないけど。でも、その分すっごい努力しているの知っているし、優しいもん

 センを少し睨むようにしてみると、嫌に冷静な瞳が見つめ返してきた。それがなんだか居心地が悪くて、

フィリス

ルームメイトのこと、あんまり馬鹿にするのよくないよっ!

 それだけ告げると、今度こそ救護室に向かった。

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