あー! 庭の掃除なんて灯黎にでもやらせればいいだろうが!!

なんであいつの傷開いてるんだよ! ざげんな、動きたくねぇんだこっちは!!

ぎゃーぎゃーと一人で騒ぎながら、箒を一応動かす。ただ騒いでいるだけなら、烏月の鉄槌後長時間説教へ一直線だ。

三冴もとび膝蹴りしたとか意味わかんねぇ!

くそっ、と箒を叩きつければ集めた木の葉が舞った。

すみませーん

すみませーん、誰かいたりしますか?

あ?

……あ

うぇ!? な、なんでもみじがここに!?

紅葉(こうは)だって、って何で七瀬が……お前生きてたんだな

ちゃんと生きてる、幽霊じゃねぇぞ

紅葉は目を輝かせながら、七瀬の腕や髪に触れる。指先を伝って、ちゃんと実態があることを告げられる。

本物だぁ、え? 今、お前何してんの?

庭の掃除

……姫取合戦であんなことしちまうお前が庭の掃除なんて……

なぁ、もみじ

それについては触れないでくれるか?

なんか問題があるのかい?

親友のお前になら……言ってもいいか、って思うから言うんだけど、今、新たに仕えてるんだよ、貴王姫に

紅葉は瞳を見開いて顎に手を当てる。

それは……大丈夫なのか?

大丈夫……だと思う。前とは違う気がする

ふーん……

……なぁ、俺からもお願いがあるんだけど

姫さんがいなくなって、ちょっと各所を転々としたんだが……その、お前らの陣に入れてくれないか?

あの人、誰?

七瀬のご友人さんだそうです。私達の陣に入れて欲しいと

新たな仲間ってこと!?

まぁ、そうでございますな。姫様の許可次第と言っておりますが……いかがいたしましょう?

烏月は探りを入れるような目線を、縁側に座る紅葉に向ける。
彼は鼻歌を歌いながら、七瀬が淹れてきて茶を啜っていた。

なぁ? やっぱり俺って警戒されてる?

俺の親友だから大丈夫だろ

七瀬の親友……

元、七瀬と同じ陣だそうです。彼も姫取合戦に負けて、その後色んな陣に入ろうとしたみたいです……しかし、戦う気がない奴はいらない、と

仕え人としてもいいから、と交渉もしたみたいですが、取り合ってくれないそうです……これは、私が退陣したあとどの貴王姫も姫取合戦に特化し始めたんでしょうかね

戦う気はないんだね

あ、もしかして……姫さん?

紅葉が振り返って、縁側から腰を上げる。軽快な足取りで近づいてきて、腰を屈めると、下から見上げる形で璃朱をまじまじと見つめる。

初めまして、紅葉(もみじ)って書いてこうは、と呼びます。こいつはもみじって呼ぶけど

いいだろ?

まぁどうぞ、お好きなように

それでだけど……

そう言うと、紅葉は縮こまるように床に頭を擦りつけた。

姫さん、あんたの陣に入れてくれ! 七瀬から聞いたんだが、あんた達姫取合戦を望まないんだろ!? 俺だってもう飽き飽きしてたんだ、頼む!!

仕え人としていくらでも使ってくれて構わない。頼む……いさせてくれ……

あの、紅葉さん、落ち着いて……

頭を下げ続ける彼に触れようとした瞬間、一瞬だけあの映像が浮かびそうな感覚があった。しかし実像を映す前にその感覚は飛散する。

え……なんだろう、どういうことだろう……

……もしかして……回避、できる?

わたし達は争いを望みません。戦に関わらないのであれば、受け入れましょう

……やったな、もみじ!

俺……受け入れられたのか? ありがとう姫さん!

なら早速……七瀬、お前庭掃除してたよな?

そうだけど

お前の仕事いただくぞ

へ? まじで? やった俺休め……

いってぇ!!

頭にげんこつが降ってきて、振り返ると烏月が拳を震わせていた。

七瀬、仕事は全うしなさい

……うぇ、お前は口うるさいおかんかよ

挨拶回りは傷が開いて再び寝込んだ灯黎以外済ませられた。

それにしても……わたしの言葉次第だったんだね

最初は皆、警戒した目線を向けていたが、自分が受け入れるのを許可したと言うと、途端に柔和な顔に変わった。
しかし、七瀬の親友だと伝えると『春画仲間』として認知されてしまった……

可哀想に……

勿論、本人は否定している。

うわっ……と

俯いて思想していると七瀬が目の前に現れたが、璃朱は気づかなかった。
相手もそうであったのか声を上げて身を翻す。

横では紅葉が目を見開いていた。

……はぁ……あぶねぇ……

お前、どうかしたか?

何でもねぇ、あとで話す

そうか……

…………

相変わらず七瀬は触れてこない。
もしも今のもそうであったのなら…………

なんでだろう

心の奥底がざわめいたが、それもまた紅葉に触れた時のようにあっさりと飛散した。

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