へぇ……触れられない、ね

それってあれと関係があるの?

たぶん……

思い出すの? 斬った感覚とか

色々とな……

何でお前、本当に貴王姫殺したんだよ

七瀬はそれ以上何も答えず瞳を閉じる。

こんな時にだんまりかよ

……俺にもよく分かんない

あ、それは俺にも分かるかもしれない

縁側に寝そべっていた紅葉は『よっ』と勢いをつけて、上半身を起こした。

たまに俺もある。何となく、な……

姫取合戦の強化か……

洗濯物を畳みながら、璃朱は空を見上げる。
外の世界がそうなっているとは思えないほど、この城は穏やかだった。
たまに乱れることがあるとすれば、三冴がこの期に及んでまだ璃朱をものにしたーいなどということと、灯黎が看病を璃朱に任せたいと言ったことぐらいだ。

……ふざけているのか、本気なのか、他意がないのか、分かんない……

とりあえずあの日のような喧嘩の雰囲気はまったく感じられないからと放置した。

お姫様

うん?

手伝う

ありがとう。やっぱり狛は良い子だね

微笑むと狛は赤くなって俯いた。またお姉ちゃんでも見えただろうか。

でも、お姉さんも瑠璃姫も全然わたしと似てなさそうなのに、視えるって不思議だな……

貴王姫ってそういうところ似るものなのかな、例えば雰囲気とか……

お姫様、どうしたの?

いやー……狛のお姉ちゃんってどんな人だったのかなって

ぼくの貴王姫様ってこと?

うん

優しくていつも手を引いてくれた。そんな歳じゃないのに、って一度だけ言ったことがあるけど『私から見たら子供だよ』って。金の髪が太陽みたいだった

やっぱり全然似てないな

おい、他の奴はどうした

あ、灯黎久々だね

七瀬と紅葉は買い出し、三冴と烏月は話し合い中

暇だったら手伝ってよ。お姫様一人でやらせたら可哀想

……そうだな

洗濯物を畳むその姿の不似合いさに璃朱は薄ら笑いを浮かべた。

しかし

うん?

紅葉とは誰だ?

あれ? 言ってなかったっけ? この城の新しい住人さん、仕え人で七瀬の親友

なんかそんな話もあったな……

現在の食事時灯黎はいない。傷はよくなっていたが完治するまでは基本布団の上と烏月が決めた。
また三冴のとび膝蹴り事件みたく傷が開くことがないように。
その入れ替わりのように七瀬の隣には紅葉が座っている。

紅葉、灯黎には挨拶してないんだね

病人だからあとにするって言ってたよ

確かに、部屋にはきたことがないな

帰ったぞー

くっそ、もみじだしに使いやがって……次は行かねぇからな!

うるさい奴だな

足音を響かせながら七瀬が現れる。背後に紅葉も一緒だ。

見たことない顔があるって思ったら……あんたが灯黎?

初めましてだね

何故お前がここにいる……

え?

先ほどまでの雰囲気はなりを潜め、灯黎は明らかに警戒の色を見せた。殺意といってもいいだろう。。

紅葉は驚きの表情を貼りつけたあと、にっと笑った。

なんか見たことあるなって思ったけど……知ってたか

お前ら知り合いなの?

お前も起爆剤のようなものだったから警戒していたが……偵察か

偵察? 俺は知らないですねー

嘘をつくな

柳葉刀に手を掛けようとしたが空を掻く。

そうだ、持ってるはずがないんだ

この城は安全だからと部屋に置いていたのだ。
まさか鼠が一匹紛れ込むとは…………
空気の切れる感覚に手で受け止める。

読まれてたか

七瀬から傷の話でも聞いていたのか

もちろん

掴まれていた脚を軸にして、左脚で蹴りを繰り出す。

お前ら!

灯黎は寸でのところで避ける。掴んでいた脚を引き寄せて殴ろうとしたが、その時には腕からするりと紅葉は脱出し駆け出していた。

待て!

もみじ説明しろ!

お姫様、みんなに報告!

う、うん……!

頷くと脳内に衝撃が走った。気持ち悪さが襲ってきてその場にしゃがみ込む。

嘘……

まるで封じられていたかのように、突然映像が脳裏に駆け巡る。

倒れているのは……誰……

いや! 七瀬いかないで!!

見慣れた赤毛が同色を散らし倒れている。
あの時、飛散した映像はこれだったのだ。
心の奥底で誰かが笑った気がする。

どうしましたがな!?

紅葉追っていた七瀬が危ないみたい!

もみじ説明しろって!

見失ってしまったが、何となく場所は解った。最初の頃に『ここいいな……』と呟いていた場所に行くと、案の定紅葉はそこにいた。

あー来たのが七瀬で良かった

ここの場所よく分かったね

お前お気に入りみたいだからな。何度か来てるだろ

うん、来てるよ

とりあえず説明しろ、灯黎と

説明って? いつか話した殺意の衝動について?

紅葉が首を傾げると。

!!

胸に衝撃が走った。
目線を下げれば、深々と突き刺さった刃が覗いている。

本当に来たのがお前で良かったわ

なんで……

お前、言ってただろ

よく分かんねぇけど殺意が芽生えるみたいな時。具体的に何かあったわけじゃねぇけど、あ、こいつ駄目だなって……殺してぇなって

お前があの貴王姫に抱いていたように、俺もお前に抱いていたんだよ

どうせ俺は去らなきゃいけねぇし、最後にできてよかったわ

待って……もみじ……

親友ごっこはこれでお終いだ。じゃあな

pagetop