リリィが目を覚ましたのは、それから数時間後のことだった。

ヒロがリリィの様子を見ようと近づくと、それに合わせてリリィは後ろにひるんだ。

それに気づいたヒロは、その場に立ち止まりそれ以上近づかずに声をかけた。

ヒロ

俺が、怖いか?

それを聞いて、リリィは小さくうなずく。

ヒロ

この船に来てから、誰かに何かされたのか?

リリィは一瞬固まったが、すぐに首を横に振った。

ヒロ

そうか。ならば、なるべく君に不用意に近づかないようほかのものにも言っておこう。

だが、困ったことがあったらすぐに言ってくれ。ここには、誰もお前を困らせようとするものはいないからな。

そういうと、ヒロは部屋から出て静かにドアを閉めた。



一人になったリリィは、ヒロの言葉で自分の体の震えの原因がようやくわかった。

だが、彼らが悪い人ではないと頭では理解していても、どうしても体はそれを受け入れようとしない。

なんの罪もない彼らを拒絶してしまうことを、リリィは申し訳なく思った。

そのころ、ヒロは船長室にいた。

アキト

対人恐怖症?

ヒロ

はい。他人との対面時に極度の緊張が起こるものです。彼女の症状もおそらくそれによるものかと。

アキト

それは、対処法があるのか?

ヒロは一瞬言葉に詰まり、小さく息を吐いた。

ヒロ

方法はありますが、長い目で見ないといけませんね・・・・。

アキト

なるほどな。それでもお前はどうにかしてやりたいんだな。

アキトの言葉にヒロは目を見開いた。

ヒロ

え?いや、俺は・・・・。

アキト

それをいうためにわざわざここに来たんだろう。
いいんじゃないか?俺はお前のそういうところ、嫌いじゃないぞ。

ただし、無理はするなよ。

ヒロ

ありがとうございます。

ヒロは船長室を後にすると、さっそく自室に向かった。本棚に入りきらずに積み上げられた書物を片っ端から引き返していく。

そして、目当ての本が見つかるとすぐにページをめくりだした。

リリィは部屋に一人でいるときは、落ち着きを保てるようになっていた。


リリィが使っている部屋は、一人用としては少し広めで、引き出しのついた机とベッドだけの簡易なつくりだった。

最初は借りている部屋だということもあって気にしていなかったが、何日も同じ部屋にいるとどうしても何か違うことをしたいという気持ちが出てきてしまう。

リリィ

私にずっと使わせてるくらいだから、何も置いてないわよね・・・。

そう自分にい聞かせると、恐る恐る引き出しに手を伸ばした。一つ目の引き出しには何も入っていなかった。

ほっとしたような、がっかりしたような何とも言えない気持ちがおそう。

そのまま二つ目を開けると、日記帳が出てきた。中を開いてみると、すべて白紙であった。

そして最後の引き出しを開けると、リリィの全身が凍り付いた。手を伸ばそうとしたが、途中でためらいそのまま引き出しをもとに戻した。


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