わたしはずっと作業を続けていた。
時間は刻々と過ぎていき、やがて龍の口の中も、夜も区別がつかないほどの暗さになっていた。
わたしはずっと作業を続けていた。
時間は刻々と過ぎていき、やがて龍の口の中も、夜も区別がつかないほどの暗さになっていた。
……フウ。神経の治療はどうにか目処がついた、っと
疲れは確実に溜まっていたが、作業自体は順調に進んでいた。
……フルル……フルルル……フルル……
麻酔がしっかり効いているため、龍はとても静かな寝息を立てている。
うん。この調子ならどうにか夜半過ぎくらいには終わるかな
麻酔の切れるのは朝方のはずだ。その前には十分に終わるだろう。
ただ、終わりが見えてきた反面、体の疲れをやたらと感じるようになってしまった。
わたしは一度、龍の口から出て休憩を取ることにした。
お疲れさん。こっちに来て座りなよ
外ではジン皇子が焚き火をたいてわたしを迎えてくれた。
……あ
ジン殿下から伺った。今夜で龍の治療が大方終わるそうだな
ジン皇子の隣には、最近会っていなかったロイローの姿もあった。
ええ、まあ、その予定です
そう警戒するな。疲労の色が出ているようだな。これでも飲みたまえ。疲労に効くぞ
ロイローはわたしに湯気の立ち込めるコップを差し出してきた。
……これは?
北で取れる豆の実を砕いて溶かしたものだ。カコアという
いささか躊躇したものの、ジン皇子も同じものを飲んでいたので口にすることにした。
……ホロ苦いのに、甘い
体中がじんわりと温まっていく。仕事で凝り固まっていた体がほぐれていくようだった。
初めて体験した味でしたが、とても美味しいです
そうか。それは良かった
堅物メガネだと思ってたけど、意外と気が利く人なのかもしれない
わたしはカコアを飲み切ると、ロイローにコップを返した。
それではそろそろ仕事に戻ります
……グラッ
……って、あれ?
立ち上がろうとしたら足に力が入らなかった。眠気が波のように押し寄せてくる。
……あ、ああ。これはヤバイかも。急にどうしたんだろう?
一番難しい神経の処置は終えている。
残っている作業は開いた穴を蓋をはめ込むだけなので、そんなに難しくはなかったはずだ。
こんなに頭がボンヤリするんだもの。もうちょっとだけ休憩した方がいいしれない。……そうだ。そうしよう
……コクッ……コクッ……
見るとジン皇子も座ったまま舟を漕いでいた。
……なんだ。ジン皇子の方こそ先に居眠りしてるじゃん。……昼間は人のこと笑っておき……ながら
……ちょっとだけ……ちょっとだけだから
わたしは自分に言い訳をしながら目を閉じた。
・
・
・
……なさい。起きなさい。まだ作業が残っているんだろう?
……えあ?
朝日が上るまであとニ時刻を切っている。残した作業があったんじゃないのか?
周りを見ると空気が徐々に白み始めていた。夜明けが近いのだ。
ヤバイ!
……ん? あれ? 俺、寝てたのか?
どうやらジン皇子も寝ていたようだ。
わたしはすぐさま龍のところへ戻ろうとした。その前に、ロイローが起こしてくれたことを思い出して振り返った。
ん、どうしたのだ?
ロイローさん。起こしてくれてありがとうございました。危ないところでした
わたしは彼に向けて頭を下げた。
彼はわたしのことを嫌っていると思っていた。
でも彼は私情を挟まずにわたしをきちんと起こしてくれたのだ。
き、気にするな。仕事を怠ける輩を注意しただけだ
柄にもなく照れたのか、彼は顔を背けながら言った。
思ったよりもシャイな人なのかもしれない
……グルルルル……ルルル……グルルル……
龍の口に戻ると口内の肉が動き出しつつあった。麻酔が薄れつつあるのだ。
わたしは急いで残りの作業を行った。
穴に充填剤を注ぎ込み、上から蓋をはめ込んだ。
約一時刻後、作業は終わった。
龍の口から出ると、ジン皇子とロイローがわたしを待ち受けていた。
わたしは二人に向けてピースをして宣言した。
治療、完了しました!
直後、わたしは疲労のあまり前のめりに倒れ込んだ。
おっと、危ねえ
ジン皇子が受け止めてくれた気がしたが、すぐに意識が遠のいていってしまった。
エピソード5へつづく ☞