初めて会ったあの日……。

はぁ……

おいオマエ、何してんだこんな所で!?

……一人で遊んでるの

家には帰らないの?

うん、まだ帰れない

どうして……?

……おうちに帰るとおばあちゃんが心配するから……

私いつも一人で……友達いなくって……心配されてるの……

だから、友達と遊んで来たって帰るとね、おばあちゃん安心してくれるんだ

ふ~ん……なら、オレたちと遊ぶか?

いいの?

僕たちと友達になればいい……

友達に?

そうだね、友達になろうよ!

うん!

そう……。


みんなは、私の初めて出来た友達だった。

一之臣さんは、ちょっとえばりんぼだけど頼りがいのあるお兄ちゃん。


いつも、私の味方だった。

じゃあ、また遊園地行けなかったんだ

そうなの!

お父さんたらこの前も約束破ったんだよ……

そっか……

すごい楽しみにしてたのに……

今度は絶対って約束してくれてたのに……またお仕事だって……

…………

遊園地の花火だって一緒に観ようって約束してたのに……

じゃあ、オレが里沙を遊園地に連れて行ってやるよ!

ホント!?

ああ!
花火もスッゲーの観せてやる!

やった! 約束だよ!?

おう、約束だ!

約束、守ってくれたんだ……。

二之継さんは、マジメで私の話をいっぱい聞いてくれた。

大好きな本の話、いつも一生懸命聞いてくれたっけ……。

本……?

うん!
これ、私の大好きな絵本!

ヘンゼルとグレーテル?

そう、見て! お菓子のおうちだよ!

スゴいよね~本当にあればいいのに~

お菓子のおうち……
お菓子で出来てるの?

そうだよ!

私ね、いつかお菓子のおうちを見つけて食べるのが夢なんだ~

へ~っ……

絶対どこかにあると思うの!

……じゃあ、その夢、僕が叶えてあげるよ

えっ!? 二ノ君が!?

うん!

いつか絶対、お菓子のおうち僕が里沙ちゃんにプレゼントするから……約束!

ありがとう! 約束だね

約束、覚えていてくれたんだ……。

三之丈さんは動物に優しくてちょっと不思議だったけど、本当は一生懸命で頑張りやさんだった……。

星……採れなかった

ううん……ありがとう。嬉しかったよ

採れなかったのに? どうして?

一緒に星を見てくれたから……

ほら、アレがうお座だよ。私の星座

うお座?

そう、あの星を結ぶとね
二匹のお魚がリボンで繋がれてる形になるの

へ~……

人魚とツバメの形っていう人もいるんだよ

人魚……

そっちの方が私は好き。
人魚姫みたいでステキだもん!

それでねあの、隣の星座はペガスス座、丈くんは何座?

……じゃあ、ペガスス座

えっ?

里沙の隣がいいから……

もしかして、アノ時の星の話を覚えていてくれたの……?

…………

里沙……

里沙さん……

……里沙

思い出した……

私は、全てを思いだして、そして改めて三人の顔を見た。

みんなは、私の大切な友達で、そして──

大好きだった人たちだ。

そうだ。

そういえば、あんな事もあったっけ……。

なあ、里沙オレたちの中で誰が一番好き?

えっ!? う~ん……

…………

一番……誰?

う~ん、そんなの決められないよ。

私、みんなの事が好きだもん!

じゃあ、誰と結婚する?

結婚は一人としか出来ないものね……

うん……一人だけ……

……じゃあ、大人になっても私の事を一番好きだった人!

オレだな絶対!

なっ、なんで兄さんズルイよ~

僕だね……

あはは……

初恋と呼べるかどうかわからない。

でも、私は三人が大好きだった。

会うたびにドキドキして、特別だった。


初めて、特別だと思えたんだ……。

ところで娘、ワシがなぜ奪ったモノをオマエに返したかわかるか?

えっ…………?

言われてみれば確かに……。

どうして急に?

実はな、この契約が不完全だったからなんだ

不完全?

どういう事ですか?

じじい、説明しろよ!

どうして……?

娘、オマエ名前は?

えっ!?

菅原 里沙(すがわら りさ)ですけど……

これを見てみろ

フワっと、私の目の前に突然紙が降りて来た。

それは、小さい時に私が書いた下手くそな字のあの契約書。


よくよく見てみると……。

[わ]、が[は]になってる……

そういえば小学生の頃、よく間違って書いていたんだ。


ナゼか、すが[わ]らを、すが[は]らで覚えてしまって、先生に注意されていたんだっけ。

つまり、この契約は不完全

えっ!?

不完全ってなんだよ!?

許嫁では無くなるという事だな……

どうにかならないのですか?

そればかりは、ワシにも無理な相談だ

しかし娘、オマエはホっとしているのではないかい?

突然、稲荷の嫁にと言われ戸惑っておったろう?

それは……

確かにそうだけど……。

でも……

これ以上無関係な人間を、神世にいさせるワケにはいかんのだ

そんな……

……ウソだ

いや、待てよ!

オレたちこの誠名のおかげで里沙に会えたんだぞ!?

それは、たまたま偶然か~

どこかの孫に甘いじじいの仕業だ

マジかよ……

おじいさまが?

……じゃあ……里沙は?

人世に帰ってもらうぞ

もう二度と会う事もないだろう

そんな……せっかく記憶が戻ったのに!

アレ、私、がっかりしている。

最初は突然の事に戸惑って、結婚とか許嫁なんて嫌だったのに。

本当にもう二度と会えないの!?

さぁ、ワシが人世まで送ろう

そんな、まだお礼も言ってない!

あっ、ちょっと、ちょっとだけ待ってもらえませんか!?

うん?

言わなきゃちゃんと!

もう二度と会えなくなるなら……。

私は三人に駆け寄った。

あっあの、い、一之臣さん!

遊園地の約束守ってくれてありがとうございました!

だいぶ時間がかかっちまったけどな……

いいえ、本当に嬉しかったです……

オレも……オマエにまた会えて嬉しかった

二之継さん!
お菓子のおうち美味しかったです……
本当にありがとうございました

いいえ、お礼を言うのは私の方です
貴方のおかげで本の素晴らしさを私は知ったんですから

夢を叶えてくれてありがとうございます

三之丈さん!
星……ありがとうございました
動物園楽しかったです

僕の方こそ……里沙が側にいてくれて
幸せだった……

……また、星を見たかったです

私、みんなのお嫁さんになれない事をがっかりしてる……。

記憶が戻ったから? それとも、私が三人の誰かを好きになってしまった……とか?


自分で自分の気持ちがわからない。

さっ、人世へおかえり……

里沙!!

里沙さん!?

里沙……?

契約は解除された……

待ってっ!

まだ、私……

……夢?

目覚めると自分の部屋だった。

頬をつねってみる。

痛い……

現実だ。

普通に考えてみればそうだ。

あんな変な事、現実にあるワケ無い……。

あるワケ……無いのに……。

なんで、私……泣いてるの?

頬を涙が伝っていく。


一之臣さん、二之継さん、三之丈さん……。


夢なのに、こんなにはっきりと記憶にあるのはどうしてなんだろう?


私はしばらく、ベッドの上で呆然としていた。

学校に行かなきゃ……

両の瞼を手でこすり立ち上がる。

いつの間にか、制服のまま寝てしまったみたいだ。


昨日の事を思い出す、どこからが夢でどこからが現実?

カラオケに行って、神社に寄って……そのあとは……?

頭の中を整理した。


階下から何か物音が聞こえた。

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