翌日の放課後、彩名は校舎の二階渡り廊下から身を乗り出して校庭を見ていた。前原たち部員がゴールを片付けようとしていたときだ。

前原……
無断で練習休んで悪かったよ、謝る
もう一度ボールを蹴らせてくれへんか
お願いだ、チャンスをくれ

じゃあ、俺とPKで対決して勝ったら許してやる
小学校の頃、公園でよくやったよな

 
 

様子を窺っていた彩名がダッシュで校庭に駆け出した…。

ゴール前では今まさに勇人と前原の男と男の意地を賭けた闘いが始まろうとしている。彩名は固唾を飲んで決闘の行方を見守った。

んじゃ行くよ

先攻の前原が助走を取って走りだした。
 
フェイントをかけて軽くゴールに流し込むと、キーパーをかって出た選手の逆方向にボールは突き刺さった。取り巻きが前原にハイタッチして喜びあっている。
 

次は勇人の番だ。

ボールをセットする勇人の表情は心なしか堅い。深呼吸をして気持ちを静める勇人を、彩名はお守りを握りしめて見つめる。



彩名

真田様、今こそ真の実力を! 蹴鞠道の神様、どうかお守りください

勇人は助走を長く取って走り出し、力いっぱいボールめがけてキックした。勇人の蹴ったボールはゴール右隅に決まった。

彩名

やった! やりました~!

 
けれども彩名の声援も虚しく、勇人は二本目を外してしまい、前原は連続四本のPKを決めた。

 



いよいよ勇人が最後のペナルティーキックを蹴る番だ。

これが決まらなきゃおまえの負けだからな

う、うん‥…

緊張して堅くなった体をほぐすように屈伸をする勇人。彩名にちらっと不安がよぎり、指をぎゅっと組んで祈った。
 
勇人は両手で握ったボールに「頼んだよ」と小声で囁き、助走をとる。

だが、勇人の蹴ったボールはゴールをわずかに外れて、ラインの外へ出てしまった。



彩名

ああああああ……!

……頼む、もう一回だけ蹴らしてくれへんか。どうしてもここで練習がしたいねん

勝手に練習するんだったら、許可はいらんやん。ただしサッカー部とは別にな

冷笑を浮かべて言い放たれて、勇人は絶句してうなだれた。

彩名

おのれ、前原殿……

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