今日もまた真田様は練習に行かないかもしれない……。なぜか悪い予感はいつも当るのでございます

 
帰宅部の彩名はいつだって自由時間があるといえばあった。もはや勇人を追うことが、ある種の部活動と言えなくもなかった。「監視部」と名付けてもいいかもしれない。
 
彩名は堤防沿いの道をあれこれ悶々としながら歩き、勇人を見失った。

ああ、ワタクシとしたことが……!なんということでしょう

しばらく河川敷を歩き、橋の下までやってきた。そこにはブルーシートでできた青いテントが三つ、寄りそうように立っている。リヤカーに積まれたがらくたの山。散乱するゴミと強烈な臭気に怯みかけた。勇気を振り絞って近づいて様子を伺った。少し先から人の話し声がしたので靴音を忍ばせて先に進んだ。

なんやおまえ、こんなとこまで来て。まさかホームレス志願やないやろな

ち、ちがいますよ……

いっとくけど、簡単になれるとおもうなよ。ホームレス稼業もそう楽やないんやで

だから、違いますって

まぁ、どっちでもええけどな

この苗、どうしたんですか?

盗んだんやないで
家庭菜園の間引きされたトマトの苗や
もらえるもんは何でも
ありがたくちょうだいするのがホームレス魂や

男がビニール袋からトマトの苗を出して植えたのを真似て、勇人も植え出した。

ハァ……

真田様ともあろうお方が、何故このような如何わしい場所に来るのか、わたしには理解不能でございます

 


 

彩名は考えあぐねた末に思いきった作戦に出ることにした。まず、勇人の住んでいる団地の前で待ち伏せをし、手編みのミサンガを渡した。

これ、ワタクシが編んだのですが、よかったら使ってくださいませ」

えっ……?

新人戦の一次予選で勇人様がゴールするところを心待ちにしておりまする!

言いたいことだけを一方的に言ってさっと立ち去る。勇人からはうざい奴と呆れられてもいい。

勇人に自分の存在を知らしめることが重要なのだ。これはまだ作戦の前段階なのである。
 

クラスメイトが話しているのを盗み聞きしたところ、前原と勇人は同じ小学校のサッカー部に所属していたのだと言う。

その頃、勇人はフォワード、前原はミッドフィルダーのポジションで、一緒に公園でリフティングしたりするほど仲が良かったらしい。小学校時代は二人とも補欠だったが、励ましあってレギュラー取りを誓い合った仲だった。中学に入って最初に前原がレギュラーを獲得したが、勇人は諦めずに練習に勤しんだ。素質が開花したのは一年生の秋。勇人が前原と同じ左サイドハーフにコンバートされ、めきめき頭角を現し、前原からレギュラーを奪った。前原に勇人に対する強烈なライバル心が芽生えたのも頷ける。
 
彩名は二人の微妙な関係を逆手に取ろうと、階段下で前原が来るのを待っていた。



前方から、前原が歩いてきた。





前原くん……!

なんだよ

これ、ワタクシが編んだミサンガでございます。どうぞ……

両手で差し出したミサンガは勇人に渡したものより手の込んだミサンガだった。こちらは買ったもので、それだけに網目もきれいに揃った美しい仕上がりだ。

使ってください! 応援してます!

いや、待てよ
おまえ真田のこと好きなんじゃなかったのか?

今は前原君のほうが……


そのとき、階段を上ってくる勇人が見えた。


あわわわわわわ‥…

ま、もらっといてやるよ

去り際に、前原は勇人を見てニヤッとした。

 
 

この作戦が成功するか否か、イチかバチかの賭けだった。もし失敗したら、自分は完全に勇人から嫌われて、見守ることさえままならなくなる。彩名はそんなリスクを犯してまでも勇人に立ち直ってもらいたかったのだ。

真田様、お許しくださいませ……!

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