勇人はあれ以来、練習を休んだ足でちょくちょく河川敷に行っては、野草摘みを手伝っている。彩名はますます心配になる。先日は男に連れられ、公園で一緒に缶拾いをしていたのを目撃した。ところが、男と接することで逆に吹っ切れたのか、勇人に変化が起こった。
 
昨日の放課後、休んでいたサッカー部の練習に勇人が参加したのだ。彩名は校庭の隅にある桜の木の下で、勇人を食い入るように見つめていた。

行くぞー!

うーっす!

彩名

真田様がこんなことでサッカー部を辞めてしまうなんてことがあったら、なりませぬ!

足の神様を祭る神社で買った『サッカー闘魂お守り』を両手で握った。

彩名

真田様の華麗なフリーキック、もしくはピンポイントクロスがまた見たい。それだけなんです。ワタクシはいかなるときも真田様を応援いたしております……

 
校庭ではミニゲームが行われていた。勇人は赤いゼッケン状のビブスを付けている。左サイドハーフのポジションを取る勇人がボールを奪い、ドリブルを仕掛ける。




走る勇人。



すると緑のビブスを付けた前原の取り巻きたちが勇人を取り囲んだ。後ろから勇人の左足に向かってタックルを仕掛け、削られた勇人はずさっと倒れた。

うううっ……!

彩名

汚い! それは反則でございます!

クソ―ッ……

勇人は歯を食いしばり立ち上がる。

彩名

がんばれ! 真田様!

 
彩名は声には出さないで懸命のエールを送ったが、今度はボールのない所で前原のスパイクが勇人の左足めがけて突進した。倒れた勇人を前原が子どもの様に後ろから抱き上げる。

おい、やめろよ!

なんだよ、人が親切に起してやったのに

周りもそうだそうだ、謝れよと騒ぎだした。

彩名

これは、多勢に無勢ではございませぬか!

 
彩名はもう少しで飛び出していきそうになったが、ぐっとこらえた。部外者が余計な口出しをしてはいけない。前原たちの虐めがエスカレートするかもしれないから、それだけは避けたかった。


 

勇人にこの難関を乗り越えて欲しくて、また、闘魂お守りをぎゅっと、つぶれるほど力を込めて握りしめた。










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