ピーちゃんの活躍

タイムマシンが動きはじめた時、ラップの隙間から、寿司がいくつか飛び出した。

悠真

体が急に軽く……。

それで、周囲がモヤっとし出した。

悠真

うわっ!

ボクは居心地の良い畳の部屋から放り出された。

悠真

お姉ちゃん! お姉ちゃん!
お姉ちゃ~~~~ん!!!

悠真

寿司飛んでるし……。

ピーちゃん

ぴっ!

悠真

さっきの鳥……。

手元に寿司とピーちゃんが来て、ボクは咄嗟にピーちゃんを持った。

ピーちゃん

ぴ~?

悠真

「ぴ~」って泣くんだ……。

ボクはピーちゃんを胸にしっかりと抱きしめた。

悠真

ピーちゃん。キミの名前はピーちゃんだよ。

ピーちゃん

ぴっ(うん)

ピーちゃん

データ入力、完了。
名前の変更ができました。

悠真

ん?

吉良先輩でもピーちゃんの鳴き声でもない、機械的な声がした。

麻里亜

それは、鳥に元々入っている音声データです。

麻里亜

偶然ですが、鳥の名前の変更ができたみたいですね。

悠真

そうなの?

麻里亜

元々「鳥」がこのAIの登録名だったんです。たまたま悠真くんが「鳥」と呼んでいたから、悠真くんと鳥とのつながりができたのでしょう。

麻里亜

めったに起こることではありません。

麻里亜

亜光速で進んでいたことと、異空間だったことも関係しているのかもしれません。

麻里亜

明確な答えは、これからみっちりと調べて出します。

悠真

え?

悠真

ピーちゃん大丈夫?
壊したりしない?

麻里亜

大丈夫です。

悠真

う……うん。

栄井

それで、タイムマシン内でどんなことが起きてたんだい?

悠真

あ、はい。

悠真

うわっ。
圧がすごい……。

鼠色のツナギを着ていたけど、けっこうつぶされる感があって、ボクはピーちゃんをギュッと胸元で抱きしめたんだ。

ピーちゃん

ぴっ……(ちょっと苦しいよ……)

悠真

あ、ごめん。

ピーちゃん

ぴっぴぴぴ(ボクのお腹を持って)

悠真

え? お腹?

ピーちゃんはマルっとしていたから、どこがお腹かわからなかった。

ピーちゃん

ぴぴぴ(ここだよ、ここ)

ボクはピーちゃんの示す場所を持った。
翼の下くらい。

悠真

これでいい?

ピーちゃん

ぴっ

ピーちゃんはうなずいた。

ピーちゃん

ピーーーーーーーーー(離すんじゃねえぜ)。

悠真

え?

ピーちゃんはそう言って、さらに加速したんだ。

悠真

わっ!

ちゃぶ台の部屋は、ボクの視界から消えた。

その背中の小さな翼を大きく広げ、ピーちゃんは飛んだ。
大空ではなく、長く暗いトンネルのような場所を。

悠真

一時間って言ってた。
吉良先輩は一時間って言ってた。

悠真

頑張れ、頑張れボク……。
耐えろ、耐えるんだ……。

ピーちゃん

ぴ(怖い?)

いつ終わるとも分からない道(たぶんワームホールなんだと思うけど)を進んでいると、ピーちゃんはボクに話しかけてきた。

悠真

うん。

ボクはうなずいた。

ピーちゃん

ぴぴぴぴぴ(大丈夫だよ。ボクは必ずみんなのところに連れて行くから)

悠真

ピーちゃん……。

ピーちゃん

ぴぴぴ(さあ、もうひと踏ん張りだ)

悠真

うん!

こんなに心強いことはないって思ったよ。

そして、ワームホール(仮)を抜けた。

麻里亜

ワームホールというか異空間です。走行する距離を稼ぐための場所です。

悠真

へー……。

麻里亜

ワームホールを通って異空間に行き、そこで亜光速になり、またワームホールを通って戻ってきたはずです。

すごいとこ行ってたんだな……。

それで、トゲトゲもやっとした場所(異空間らしい)を抜けて、戻ってこれたんだ。

悠真

あれ? ここは?

ピーちゃん

ぴぴ(ボクのお家だよ)

ピーちゃん

ぴっぴーぴ(ここが一番降りやすいから)

ロボットの頭のところにピーちゃんのお家があった。

悠衣

悠真! 悠真!

下からお姉ちゃんの声が聞こえてきた。

悠真

お姉ちゃんだ!

悠真

帰って来たんだ……。

悠真

ピーちゃん、ありがとう。

ボクはピーちゃんをぎゅーっと抱きしめた。

ピーちゃん

ぴぴ(ふふふ。大したことはしてないよ)

悠真

そんなことないよ、ピーちゃんのおかげだよ。

ピーちゃん

ぴぴっぴ(さあ、みんなのところへ戻ろう。僕のお腹をもう一度持って)。

悠真

うん。

ボクがお腹を持つと、ピーちゃんは畳の部屋に連れてきてくれたんだ。

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