包括






























意を決しての再挑戦。




今度は慢心しない。



確実に避けて距離を縮める。




多少の挽き肉だって気にしちゃいられない。

眠井 朝華

んんー……








破裂前の餃子を横目に見ながら思うこと。





なんて不格好な包み方だ……。



そして、なんて大きな餃子だ。





いや、餃子自体は普通の大きさだけど



詰め込む餡が尋常じゃないらしく



破裂する直前には50cmほどにまで膨れ上がる。








眠井 朝華

よーし、ここなら……。





ようやく到着した、



夢の主の顔と声が認識できる場所。

また失敗だぁ……。






この顔、知っている……。



隣のに住んでる高橋さん……。



私と同じ中学だ。








次の瞬間、癇癪を起こした夢の主が



不格好な餃子を投げ捨てる。





何でうまく出来ないの!



近くでその製図過程を見ると


よくわかる。






どう見ても餡の詰め過ぎだ。





皮より餡の塊の方が大きい。







直径10cm程度の皮に


50cmもあろう餡の塊を詰めるなんて


そりゃ盛大に爆発もする。










しかし、一旦は包み込まれて収まる。


どうなってるの?


あの中は四次元にでも繋がっているの?


チーシャ

まあ、彼女の夢だからね。基本のルールは彼女が決められる。

彼女は黙々と四次元餃子爆弾を


作っては投げ捨て、作っては投げ捨てる。





このままでは永遠に終わらない。


まるで賽の河原で石を積む子どもだ。


なぜそこまで自分を苦しめてるの?





その姿を見ていたたまれなくなった私。



思わず声をかける。



眠井 朝華

もう少し、包む餡を減らしたらいいじゃない……

嫌!
私はこの具を
全部包みたいの……ん?

……あなた、誰?



しまった、気づかれた。






なにやってんだー私―!


いまこそコミュ障の特殊能力を


発揮しなきゃいけないのに。





この場にとどまれているってことは、


幸い認識はされていないみたいだけど。


私はね、沢山の人が食べれてみんながお腹いっぱいになれる餃子を作りたいの!
作らなきゃいけないの!

ほっといてよ!




突如、夢の主を



半透明の球体のようなものが包み込む。





球体は、脈動する心臓のように波打ちながら


徐々に大きさを増す。




そして、ついには


私のところまで広がってきた。

眠井 朝華

うわ、押し出される!









私は二度目のスタート地点にまで飛ばされた。






良かった、私の軽さが実証された。





飛ばされなかったら


ある意味ショックだ。


チーシャ

あー、やっちゃったね……。

眠井 朝華

どういうこと?

チーシャ

心の壁を築いたみたいだ。

眠井 朝華

もしかして、引きこもったって事?

チーシャ

当たらずとも遠からず、ってとこかな。

……ともかく。

チーシャ

君がすべき事は彼女を否定することじゃない。
悪夢から解き放ってあげることだ。





そうだった……。




高橋さんの暗く曇った空…。


止まない雨…。


延々と続く不毛な作業…。






これを正しい方法で解き放ってあげないと……。



チーシャ

さて、どうしたら良いと思う?






私は目を閉じ思案する。



眠井 朝華

うーん……。







包みきれない餃子の餡……。









みんながお腹いっぱい……。



























そうだ、これだ。











チーシャ

うん、悪くないんじゃないかな?








目を開けた私は、




思い立った物を具現化させ、手にもつ。





眠井 朝華

チーシャ、行ってくるね。

チーシャ

がんばって。






三度目の挑戦。


これで終わらせる。






高橋さんの悪夢を。











また来たわね!
もう放っておいてよ!

\グンッ!/




一段と膨れ上がる心の壁。


でも、そんなのはお構いなし。

眠井 朝華

本当にこだわるべきは完成させる事!

窮屈な場所に包み込まずことじゃなく、全て包み込める方法を!

眠井 朝華

いっけー!





広がる巨大な円形のシート。



それは彼女と球体、



そしてあたり一面の餃子爆弾を



まるごと包み込む。















そう、半径100mの超巨大餃子の皮。










チーシャ

でかっ!

眠井 朝華

どやぁ!






高橋さんを飲み込み、




超巨大餃子ができあがった!





キャッ!


しばらくすると、


超巨大餃子の包み口から


高橋さんだけが飛び出してきた。





まるで異物を吐き出したみたい。








吐き出された高橋さんは


自分を飲み込んだ超巨大餃子を


まじまじと眺めていた。

……そうだ。
餃子の皮を大きくして
餃子自体を大きくすればいいんだ……。

チーシャ

今までそこに気づかないのも、ちょっとアレだけどね。

これなら、
私の作りたい餃子が作れる!

この大きさなら、
みんながお腹いっぱいになれる!






憑き物が落ちたような笑顔になる高橋さん。












周りを囲んでいた巨大な密室が



溶けるように消え始め青空が


覗き始める。





そして、高橋さんの姿も少しずつ



透明度を増していく。


チーシャ

解決、かな?






チーシャが安堵の言葉を発した時。












空は突如として色を失った。




まるで闇のカーテンの幕を引くかのように。






眠井 朝華

どういうこと!?
書き換えられた……。






チーシャがポツリと漏らす。




チーシャ

終焉干渉だ……。



























つづく

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