彩名は心配で勇人の後をつけている。家とは逆方向の河川敷を歩いていた勇人は、土手に寝ころんで鞄からスマホを出した。しばらく掲示板を見ていたが、悔しそうに顔を歪めてスマホを投げ出してごろんと芋虫のように丸まって目を閉じる。草むらに姿を忍ばせていた彩名は思わずため息をついた。勇人のそんな姿は見たくなかった。
 
そのとき男の声がした。


『なに? あのヘボヘディング』『アイツのせいで地区優勝がふいになったな』。ふーん、アホくさい

彩名がぎょっとしたのと同時に、勇人が飛び起きて、男からスマホを奪い取った。

……勝手に見ないでください

捨ててあったから拾っただけや

勇人は呆れて男を見た。よれよれで元は黒かったのだろうが灰色になったランニング。ぼさぼさの頭に伸び放題の髭、うす汚れた顔をしてにっと笑っている。無視を決め込んでスマホをズボンのポケットにしまう。男は雑草をかき分けて、何かを探しているようだった。


あった、あった

野草を引き抜き、使い古しのビニール袋に入れている。勇人は怪訝そうに見て、何か言いたそうにしている。

真田様、ここは無視でございましょう

あっ、ちょっと動かんといて!

な、なんですか急に……

おまえの足元に、カラスノエンドウがあんねん

カラスノエンドウ?

食材や。ゆでて醤油たらして食うと美味いねん

男は嬉々として、勇人の足元に生えているカラスノエンドウをぷちぷちと摘んでいる。

カタバミ、ヤブカラシ、オオバコ、タンポポかて食べれるねんで。ここは俺の天然の食料庫や

………

兄ちゃん、ヒマやったら手伝ってぇな

えっ、どうして俺が……

ええがな

男はまた、にっと歯を見せて笑いかける。

真田様、貴方様は一体何をなさっているのでございましょうか?

 
二人の様子を一部始終見ていた彩名は、勇人のあまりにも優柔不断な言動に脱力した。勇人は呆れるのを通り越して根負けしたように、一緒に野草を探し出した。鼻歌を歌いながらカラスノエンドウを摘む男はどう見ても怪しげで、たぶんホームレスではないか。だけど、勇人にはそうは見えないようだった…。

うん? おじさん、どこかで見たことが……

勇人はじーっと男の顔を見つめている。

なんやなんや、惚れたんか? あいにくそのケはないで

いえ、そうじゃなくて……

何か言いたそうにしてもじもじしている勇人から、妙な親近感が見え隠れして、彩名はますます不安になった。





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