三人の子供が一人の怪物を相手に苦闘している様は、外野から呆然と戦況を見守っていた愁斗からすれば異界の出来事のように思えていた。
俺はいま、何の為に戦っている?
決まっている。妻子の為だ。でなければ、あんな奴はすぐ裏切っている。
俺の事務所を壊滅させ、部下を皆殺しにした北条時芳を、俺は決して許してなどいない。本当なら自分の手で殺してやりたいくらいだ。
なのに、俺は自分の師匠を苦しめてまで、一体何をしたかったんだ?
久方ぶりに再会して、ろくに言葉も交わせなかった。時芳から存分に苦しめてから殺せと言われたので、私情を葬り去って命令を実行に移した。
いまさら、後悔が大波の如く押し寄せてくる。
まだ幼い頃、俺は一人の忍と出会った。忍者というものに憧れを抱いていた俺は、その男――二曲輪猪助に弟子入りを志願した。
彼は愛想が悪く、口数も少ない偏屈な男だった。でも、彼は知れば知る程、本当は慈愛に満ち溢れた人物だった。彼の親友であり、風魔一党の先代頭だった東雲宗仁は、おそらく彼のそういったところを気に入っていたのだろう。
陽の宗仁と、陰の猪助。俺は二人を尊敬していたし、その関係性を羨ましく思っていた。
二人が風魔から出奔したいまでも、俺は二人を憎めないでいる。
でも、文句の一つくらいは言いたかった。