再び寮の中に戻ると、一つ大きく息を吐いた。
覚悟の深呼吸だ。




あの場所が今は果てしなく遠くに感じる。






戦場に向かう侍達はこんなかんじだったのだろうか。。。





よく考えると武器らしきものが無い…



相手が寝ていれば…



でも素手では…


と。

もう使えない携帯だと思ったら使えるではないか。




紐状のネックストラップ。




これさえあれば…





一回首を括ってしまえばやりおおせるだろう。






寝ていれば尚更楽だろうし


刃物を使ってだと
もしも奴が血を流すのなら
事後処理が大変だしな。




所詮幻影。




死体は消えるだろうから絞殺が一番楽だろう。





ガスも考えたが
もし引火したら部屋が吹き飛んでしまうし


他の人も巻き込んでしまうかもしれない。




毒殺。


牛乳に入れればほぼ確実だろうけど…
嘔吐物や吐血で
部屋が汚れてしまっては刺殺と変わらない。




ありとあらゆる方法があるが
目の前で生死の確認がとれるのと
クリーンなのはやはり絞殺だろう。




また廊下に乾いた音が響く。
一歩一歩部屋に近づいている。



ついに部屋の前だ…


ドアに聞き耳を立ててみると
鼾とテレビの音が聞こえる…


鍵は…



開いている!…




なるべく音をたてないようにゆっくりとドアを開け
壁に背をつけ滑り込ますようにするっと入っていく。

細心の注意を払って靴も脱ぎ
余計な音を立てないように裸足になると
床から冷たさが体中をすり抜ける。




改めて生きている実感を得るかのように
スリ足で蟹歩きをする。



体が半分程部屋にねじ込んだところで
急に奴が唸りだした。




外から差し込む光に気付かない事を願いながら
動きを止める。


寝苦しいのか
寝返りをうち
体を半分起こすと

テレビを切って
そのままの体制で
そのまま眠りに
 着いたようだ。



しんとした静寂の中寝息が聞こえてきている。



どうやら気付かれなかったようだ。




ホッとする暇はない


いつまた起き出すかわかったものではない。



慎重に残りの半分の体を入れると

音を立てないようにゆっくりとドアを閉める。

部屋は真っ暗だ。




基本的に豆電球もつけないから真っ暗だ。
窓から差し込む月明かりだけが部屋の明かりだ。




部屋の暗さに目が慣れるまでしばらく動けないな。




時計の時を刻む音だけが部屋に響く。




でも今の僕には
自分の心臓の鼓動音が世界で一番大きな音であるかのように
激しく脈打つ音だけが聞こえる。



もう引き返せない…



息を殺し、一歩一歩奴に近付いていく。




もう心臓はハードロックのドラムばりの64ビートで拍動している。


聞こえるはずなどないのだが
たまらず心臓をおさえてしまう。



よくみると、もう死んでいるかのような寝方だ。
自分ながらどうかとおもうが…




部屋に入ってからもうどれだけ経っただろうか。
実際は10分足らずだろうけど

自分には数時間にさえ感じられる。




ようやく近付いたものの、布団に隠れた体の一部を踏まないようにだけしてさらに慎重に準備に入る。



うつ伏せに横たわる自分を跨いで上から見下ろすと、またどこからか声が聞こえてくる感じがある…



「さぁ、覚悟を決めろ」

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