橘杏子

それで?

犬のジョンを撫でながら
私は、近くのふかふかのソファーに腰を掛けた。

坂田結城

てかなんでその服着てるの?

橘杏子

あ、ほんとだ
つい癖で・・・。

坂田結城

癖って怖いな

橘杏子

あなたたちのせい
ですけどね

坂田結城

じゃあ本題にいっていいか?

橘杏子

地味にシカトやがったな

坂田結城

俺ずっと夏子が好きだった。
今も好きかもしれない。

結城は優が現れたときのこと。
優に宣誓布告されたこと。
自分が情けなくて意気地なしだということ。

今までの粘りが嘘だったかのように
さらけ出すように話してくれた。

これが私と彼の間に生まれた信頼関係から
出された言葉だったらいいな。

橘杏子

大変だったんですね・・・

心なしに感想を述べているわけじゃない。
支えになってあげたいという気持ちが
言葉として出たものだ。

坂田結城

だろ?

なんて笑い飛ばすけど
本当に辛い思いをしたんだなって。

まだ彼は素直になりきれていない。
いや、なれないんだと思うと
胸が締め付けられるように痛かった。

でも、自分ばっかり責めないでほしい。

橘杏子

でもまだ続きが
ありますよね・・・?

坂田結城

うん、その通り。

坂田結城

まだ続きがあるんだ。

田中夏子

結城・・・

丁度、廊下の角でちょうど夏子とぶつかった。
驚いた様子でこちらを見るも、
すぐさま顔を下に向けた。

でも、遅い。
俺の目は瞳に涙をためた夏子の姿だった。

坂田結城

夏子・・・?
どうしたんだよ、一体。

田中夏子

なんでもないよ

泣きそうなのになんでもないなんて
おかしい。嘘に決まってる。

坂田結城

夏子、隠すな。
なにがあったんだよ

田中夏子

なんでもないってば!!

というと、驚いた顔をして口を押えて
気まずい雰囲気から
逃れるように走って去っていった。

追いかけようと夏子に向かって叫ぼうとした瞬間
急に手を掴まれる。

結城・・・

手を掴んだのは、当時の彼女だった。

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