19│マシンガントークボーイ
19│マシンガントークボーイ
よかったね、レインと元通りになって
そう見えましたかにゃ？
部屋のベッドの端にまるまりながら、クロニャが上目使いでこちらを見つめる。
かわいすぎ。
あの後、いつも通りに話せていましたでしょうか……わかりませんにゃあ。
本当は、緊張しっぱなしで、にゃんだかドキドキして……晴華にゃん、ほっぺが真っ赤ですにゃ。
にゃんでそんなに照れているんですかにゃ？
だって、だってだって、それって恋でしょ、クロニャ！
んにゃあー！
頭を抱えてごろごろするクロニャ。
ああ、かわいい、かわいい！
レインとお似合いだと思うよ？
いい感じだとも思うし……
私が詰め寄ると、クロニャは困ったように首をかしげた。
まあ、わたしは何とも……光にゃんと晴華にゃんが付き合ったら、レインと付き合うってことににゃるんでしょうけど
ずばり、と、とんでもないことをおっしゃる！
え、そ、そうなの！？
にゃあ。
人間と守り猫がばらばらに恋人同士ににゃっちゃったら、世界は大混乱ですにゃあ。
わたし達守り猫は、人間側が付き合ったら、恋人ににゃるんですよ
なるほど、えっと、ということは、つまり……つまり？
驚きのあまり混乱している私に向かって、クロニャはにこりと微笑んだ。
光にゃんと晴華にゃん、なかなかお似合いだと思いますけどにゃあ
立場逆転。今度は私が真っ赤になったのだった。
あ
ぬあっ
次の日、屋上に向かうまでの廊下で、先輩と遭遇した。
思わず変な声を出してしまったのは、昨日のクロニャの言葉があったからだ。
私達が、お似合い！ 変に意識してしまう。
ぬあ？
先輩は余裕の微笑みだ。うう、恥ずかしい。
さらに、私達をちらちらと見つめる視線も感じる。
舞の言葉を思い出す。
私達が、噂になってるということ……視線が刺さるようで、ますます恥ずかしい。
行こうか、と先輩が歩きはじめる。
その隣を、ぎくしゃくと歩く私。
何か、何か話さないと、心臓が持たない！
どうしよう、何の話がいいかな、と考えに考え、ぽんと浮かんだのは舞のことだった。
えっと！
舞がなかなか屋上に行けなくて残念がってました
幸谷さん、忙しいの？
部活の部員がなかなか集まらないみたいで、勧誘しているみたいです
そっか、大変だね。
幸谷さん、何部なの？
屋上に向かう階段を一緒に上っていく。
背中に刺さる視線を感じながら、私はなるべく笑顔で話し続ける。
料理部です。
凄く美味しいんですよ、舞の料理！
へえ、いいね。
川越さんは、料理するの？
急に、私の話！ なぜ！
わ、私ですか？
しますよー、料理好きなんです
そうなんだ。
いいなあ、今度食べさせてよ、川越さんの料理
にこりと爽やかに笑う先輩。
もおおなんなの、その笑顔ー！
さてと、今日も元気にパトロール……
口をぱくぱくさせている私をよそに、そう呟きながら、扉を開ける先輩。
パトロールって、とつっこもうとした、そのとき。
あ！ 光先輩！ 川越先輩！
にゃー！
元気な叫び声と共に、駆け寄ってくる人がいた。
私の名前を呼んだけれど、私の知らない生徒だった。
はじめまして！
……はじめまして
どうやら先輩もはじめましての人物らしい。
そんな相手にでも冷静に対応する先輩、さすが。
私はびっくりして、先輩の後ろできょとんとしてしまい、声もでなかった。
誰だろう、この元気君。
いやあ、今日、いらっしゃらないかと思ってドキドキしてました
俺、一年三組の田宮昂太郎（たみやこうたろう）って言います！
最近、光先輩が屋上からこう、何て言うんですか、パトロール！
パトロールが、不定期になってたじゃないですか。
何かあったのかなって、心配で
今日は思いきって来てみたんですけど、会えてよかった！
マシンガントーク……！
あっけにとられる私達をよそに、昂太郎君はにこにこと嬉しそうに笑っている。
にゃんにゃんにゃあー！
隣で笑う猫も、とても楽しそうだ。
と、思ったら。
にゃ？
あれ？
クロニャとレインが、同時に声をあげた。
光、猫が、会えなかった、残念だなあって
ん？ どういうことだろう。
思わず先輩を横目で見ると、先輩も不思議そうに首をかしげた。
今日もパトロールですか？
昂太郎君が、身を乗り出して聞いてくる。
興味津々みたいだ。
パトロールねえ
あ、すみません、表現が変ですかね。えっと、ご趣味なんでしたっけ
そう、趣味。よく知ってるね
よく知ってると言えば、私の名前も！ 何で？
割り込むと、昂太郎君はにかっと白い歯を見せて笑った。
川越先輩も有名人っすから。
ミステリアスな雨音先輩と仲良しな二年生の先輩、って
ぬあー！ そうなのー！
噂って怖い！
私、全く知らなかった！
なんだか恥ずかしい！
昂太郎君は私と先輩を交互に見てにこにこ微笑んだあと、ちらっと私の後ろに視線を移した。
でも、俺あの人の名前は知らないんです。
ここにもたまにいらっしゃるんですか？
ん？ 誰のこと？
先輩が首をかしげると、昂太郎君は少しだけ照れたようにはにかんだ。
えっと、雨音先輩がこの前、ここから手を振ってた
めがねをかけた……髪の長い
にゃああ
昂太郎君の猫が、ふにゃりとした声を出す。
かわいかった、だって
にゃーるほど、そういうことですか
昂太郎君が急にもじもじし始める。
先輩と、顔を見合わせ、こくり、と頷きあった。
幸谷さんだ
舞ですよね
同時に言うと、昂太郎君はぱっと顔を輝かせた。
幸谷舞さんって言うんですか！
川越先輩が呼び捨てってことは、二年生の先輩ですかね？
うっかり本名駄々漏れ。
ごめん舞、と心の中で謝る。
そっか、君は幸谷さんが気になってここに来たんだ
ど直球ですね先輩！
けろっと確信を突いた先輩は、私に向かって軽く肩をすくめてみせた。
ここまでわかりやすいんだから、隠す必要もないでしょ
あはは、雨音先輩のおっしゃる通りですよ
昂太郎君も、隠すつもりはないようだ。
雨音先輩が、幸谷先輩に手を振ってたときに、俺、たまたま近くを歩いていたんです。
他の女子生徒がキャーキャー騒ぐ中、手を振られた本人は、少しだけはにかんで、逃げるようにして走って行っちゃったんですよ
にゃあ～
溶けるような声を出す昂太郎君の猫。
メロメロじゃん
レインが舌をつき出す。
昂太郎君本人は、真っ赤になった顔を手で押さえている。
か～わいくないっすかあ！
まあ、ねえ
先輩の肯定に、思わず胸がちくりと痛む。
軽い同意でも、舞がかわいいって言われた、そこに嫉妬してしまっていたことに気がついたのは、ちくりと痛んでから数秒経ったあとだった。
重症かも
恥ずかしくなってきたので、思考を強制的に変える。
舞に会いたい一心で屋上に来た、昂太郎君。
正直で、真っ直ぐで、なかなかに好印象だ。
友達を作るのが苦手、という舞の言葉を思い出す。
恋人、とまではいかなくても、後輩の友達が増えるのは、彼女にとっても嬉しいことなんじゃないかな、と考えてみる。
そうと決まれば！
そんなに気になるの？
気になるっすよ、お話してみたいです
私、舞と同じクラスなんだけど、今度私達の教室においでよ。
一年三組でしょ？
そしたら近いよ、辞書借りに来るフリしてみてさー……
おお、いいんですか！
そんな言葉を期待していた、のに。
あー……
困ったように笑う昂太郎君にすり寄るようにしながら、昂太郎君の猫がとても寂しそうにないた。
にゃーあん
にゃ？
にゃー？
レインとクロニャが同時に同じようになく。
まねすんな、とレインがクロニャを軽くはたいたあと、こそこそと小さく言った。
それは無理だなあ、だって
さらに、猫は続ける。
にゃんにゃーにゃー
にゃあー
へえー、そりゃ大変だ
レインもクロニャも驚いている。
何、何、何なの？
