トキザはハサミを構え、
その刃をタックの首に振り下ろそうとした。
だが、その直前――!
トキザはハサミを構え、
その刃をタックの首に振り下ろそうとした。
だが、その直前――!
――破魔爆裂陣!
くぎゃおぉおおおぉっ!
どこからか放たれた破邪魔法が
トキザを中心に炸裂した。
破邪魔法は対魔族用の攻撃魔法であり、
ほかの種族はダメージを受けない。
そのため、地形や混戦状態の中でも、
魔族だけを攻撃できるわけである。
さらにその波動は周囲に残存していた
レッサーデーモンの全てを消滅させる。
また、トキザが瀕死の重傷を負ったことにより、
彼に操られていたアンデッドたちは
灰となって消えていった。
う……が……。
ったく、卑怯なことを
してくれちゃって。
辛うじて地を這っていたトキザのところに
誰かが歩み寄った。
そしてそこを通り過ぎ、
重傷を負って気を失っているタックたちに
回復薬を投与する。
き……さま……。
……あら? まだ喋れるの?
意外にしぶといわね?
破邪魔法を使ったのはレインだった。
彼女は冷たい瞳でトキザを見下ろしている。
普段、仲間たちには決して見せない、
凍えるような気配をまとわせながら……。
あの魔法をマトモに食らって
消滅しない魔族は
なかなかいないわよ?
そこそこ強いのね、あんた。
ぐ……何者だ……。
あんたみたいな外道に
名乗る名前なんてないわよ。
そう言い放つと、
レインは自分の手の中に魔法力の剣を作り出した。
魔法剣(オーラブレード)――
古代魔法の一種で、
その刃はどんなものでも切り裂ける。
例え神でも魔族でも。
ただし、生まれ持ったセンスがなければ
扱うことが出来ない。
ほかにも様々な制約がある。
――これこそがレインの奥の手である。
っ!? そ、それは魔法剣っ!
ま、まさか貴様はデ――
……ごきげんようっ♪
恐れおののくトキザに対し、
レインは満面の笑みを浮かべながら
躊躇うことなく魔法剣を振り下ろした。
その切っ先はトキザの心臓を貫く!
ぎゃあぁあああぁーっ!
トキザの体は灰となって消えた。
こうなってしまっては、
もはや二度と復活することは出来ない。
風に融けていくトキザを
レインは無表情で見据えている。
……耳障りな声ね。
断末魔の叫びは何度聞いても
不快しかないわ。
さて……と……。
今のうちにタックたちを
安全な場所に避難させて
おきましょうかねっ♪
レインはトキザに対しての時とは対照的に
温かな眼差しをタックたちに向けていた。
そして魔法力で倒れているタックたちを
宙に浮かべる。
ふふ、間に合って良かった。
でもまだ私が生きていること、
明かすわけにはいかないのよね。
それが寂しいな……。
さて、さっさと
クレアに合流しなくちゃ!
こうしてレインはゲートを使い、
タックたちを避難させた。
そのあと近くにいた神官の女性に介抱を頼む。
もちろん、レイン自身の顔は思い出せないよう
記憶を操作する魔法をかけて。
ん……あ……。
タックは目を開き、ゆっくりと起き上がった。
――そこはとある民家の中。
さらに自分の体が
手当てされていることにも気付く。
そのあと、周りを見回し、
同じ室内にビセットたちも
寝かされていることを認識した。
タックはすかさずビセットに駆け寄り、
彼の体を揺する。
おい、ビセット!
う……。
ビセットは声に反応し、意識を取り戻した。
それと同じタイミングで
ロイアスとシィルも目を覚まして起き上がる。
良かった!
みんな生きてるみたいだなっ!
タック殿、ここは?
オイラにも分からない。
でもなんか助かったみたいだ。
確か私たちはトキザとかいう
魔族の攻撃を受けて……。
あのあと、
どうなったのでしょう?
さぁな……。
オイラも気を失っちまったからな。
タック様、
これは……一体……?
あ、意識が戻ったのですねっ!
その時、介抱を任されていた神官の女性が
部屋に戻ってきた。
全員が起き上がっているのを見て、
安堵の表情を浮かべている。
お前がオイラたちを
助けてくれたのか?
どうなんでしょう?
私はあなたたちの介抱をするよう、
頼まれただけでして。
その代わりに、
教会にご寄付をいただいています。
私は神官のユラと申します。
頼んでいったのは、
どんなヤツだった?
それがよく覚えていないんです。
思い出そうとしても
その人の顔だけは
浮かんでこなくて。
魔法で記憶を操作されたのかもな。
誰なんでしょうね?
敵ではなさそうだが……。
お嬢さん、
ここはどこなのでしょうか?
レティ村です。
近くにルナトピアと繋がる
ゲートのある村だ。
そこから運ばれたんだろうな。
とりあえず、
ルナトピアに戻りましょう。
アレス様たちが気になります!
まだ痛む体を引き摺りつつ、
タックたちはゲートを使ってルナトピアへ
戻ろうとする。
だがその時、
室内には来客を知らせるチャイムが鳴り響いた。
ユラは覗き窓から外の様子をうかがい、
ドアの向こう側へと声を掛ける。
次回へ続く!