タックたちの前に現れた青年は
邪悪な気配をまとわせていた。
瞳の奥には凍えるような冷たさが漂っている。
タックたちの前に現れた青年は
邪悪な気配をまとわせていた。
瞳の奥には凍えるような冷たさが漂っている。
お初にお目にかかります。
私はクロイス様にお仕えする
トキザと申します。
クロイスだとっ!?
タック殿、
クロイスとは何者なのです?
魔王の四天王さ。
シャインの双子の姉でもある。
っ!?
事態の深刻さを理解したビセットは
額に汗を滲ませた。
表情は曇り、奥歯を強く噛みしめる。
今ごろ、クロイス様は
シャイン様やデリン様とともに
勇者の息の根を
止めていることでしょう。
四天王が3人もっ!?
なんということだ……。
さっさとコイツを倒して
エレノアの援護に向かいましょう!
そうはさせません。
…………。
トキザは何かを呟き、大きく腕を振り下ろした。
すると地面には魔方陣が浮かび上がり、
辺り一帯が黒い光のドームに覆われる。
空気は淀み、血のような臭いが充満している。
結界かっ!
この結界は私の命と
連動しています。
つまり私を倒さない限り、
外には出られないということです。
もっとも、外から中には
自由に入れますけどね。
……この結界は
お前自身の命を削るぞ?
そのことを知っているのか?
もちろんですっ!
ですが、どんな手を使ってでも
あなたたちの足止めをせよとの
クロイス様のご命令ですので!
大きく見開かれたトキザの瞳は
狂気に満ちていた。
そこには身震いするような不気味さと
恐怖が同居し、
禍々しい気配は大きく膨れあがっている。
さらに口角は大きく吊り上がり、
喉の奥でクククと笑っていた。
やはり私たちの戦力の分断が
目的だったようですね。
おそらくシャインが
計画を立てたんだろうな。
あいつらしいゲスなやり方だ。
安心してください。
ただ足止めをするつもりはありません。
せっかくですから、
あなたたちを始末してあげます。
トキザは魔法力で空間に切れ目を作り、
そこから巨大なハサミを取り出した。
そして取っ手を持つと、
試し切りをするかのように
ジョキジョキと何度か動かしてから、
切っ先を4人の方へ向ける。
この刃は骨さえも容易く断ち切ります。
さぁ、苦しみと絶望の声を
聞かせてもらいますよ。
そう簡単にやられるもんか。
オイラたちが力を合わせれば、
お前を倒すのは
難しいことじゃない。
それはどうでしょうか?
トキザが指を鳴らすと、
どこからかレッサーデーモンが現れた。
その巨大な手は幼い子どもの頭を掴んでいる。
子どもは苦悶の表情を浮かべ、
手の拘束から逃れようと必死に藻掻いている。
それを見た途端、
ロイアスとシィルは強く息を呑んだ。
なっ!? ラピスっ!
族長様ぁ、シィル様ぁ!
……レッサーデーモン!
少し痛めつけてやりなさい。
ただし、殺してはいけませんよ?
御意!
トキザの指示を受けたレッサーデーモンは
ニヤリと口元を緩めて頷いた。
そしてその太い腕に少しずつ力を入れていく。
あがっ! あぁああああああぁっ!
絹を引き裂いたような悲鳴が辺りに響いた。
ラピスの手足は大きく震え、
ダラリとぶら下がったまま動かなくなる。
声も全く発していない。
ラピスっ!
気絶しただけです。
この子を殺されたくなかったら、
武器を捨てなさい。
くっ……。
早くしてください。
私は気が短いのです。
わ、分かったから
子どもには手を出すなっ!
タックは持っていた小弓を地面に投げ捨てた。
さらに腰に差していたナイフも放り投げる。
ロイアスとシィルも観念したように
槍や剣を投げ捨てた。
その際の乾いた金属音が寂しく響く。
その様子を見て
トキザは満面に笑みを浮かべた。
抵抗したり避けたりしたら
子どもを殺しますからね?
くっ……。
安心してください。
あなたたちはすぐに殺しません。
たっぷり痛めつけて
苦しませてあげます。
トキザはタックたちに駆け寄り、
ハサミの柄の部分で激しく殴打した。
何度も何度も何度も――。
それに対してタックたちの出来ることは、
ひたすら耐えることだけだった。
そんな激しい攻撃はしばらく続き、
ついに4人は倒れたまま
動けなくなってしまったのだった。
その様子をトキザは満足げに見下ろしている。
愚かですね、平界の連中は。
こんなガキ1人のために
命を捨てようとは。
――と、こいつは用済みですね。
…………。
…………。
トキザがパチンと指を鳴らすと、
レッサーデーモンに頭を掴まれていたラピスは
全身が灰と化して風に消えた。
そして最後に灰の中心にあった魔法玉が
地面に落ちて儚く割れる。
こいつが偽物だとも知らずに、
バカな連中です。
本物のガキはとっくに
始末していたというのに……。
さて、こいつらにも
そろそろトドメを
刺してあげるとしましょうか。
冷笑を浮かべたトキザは、
ハサミを構えて刃の部分を開いた。
先端の部分はタックの首を狙っている。
次回へ続く!