私と景虎は、夕やけ空の下を歩きつづける。
私と景虎は、夕やけ空の下を歩きつづける。
歩きつづけ、ついに家の前までたどりつく。
たどりついた、けれど。
あのさ、百歩ゆずって、景虎だって信じることにして……。
ああ、さすがは心の美しい菓乃さん。わたくしのあふれんばかりの愛が通じたのですね。
愛とか、そういうのよくわかんないけど……。……あの、どこまでついてくるの?
はい? わたくしは愛沢家の飼いネコゆえ、今日からまた、こちらでお世話になる予定ですが?
いやいや、ちょっとムリでしょ!
見た目、わりと危険なコスプレお兄さんだよ!?
その時、玄関がガチャリと開く。
菓乃、どうしたんだい? 家の前で大きな声をだして……。
お父さん!
この状況、どうしたら――!?
あ、あのね、お父さん。このひと、昔飼ってたネコの景虎なの!
修行して人間っぽくなれたんだって!
ホラ、耳とか、もようが一緒でしょ!?
……。
私と景虎しか知らないことも、ちゃんと知ってたの。
本当に景虎なの!
気がついたら、言葉が勝手にあふれだしていた。
景虎は、ちょっとおどろいた顔をしていたけれど、私の頭にそっと手を置き、いとおしそうになでた。
そして、お父さんに向きなおると、にっこりしながら、一言。
『美青年陰陽師(びせいねんおんみょうじ)・氷室(ひむろ)』。
!!
重人どの、マンガ家であるあなたが今もあたためている自信作です。
わたくし、いつも重人どのが、悩みながら、苦しみながらも、読者に一生けんめい物語を届けていること、誇りに思っておりました。
このすがたはそんなあなたの代表作になるであろう作品の主人公・氷室をイメージして変化(へんげ)したものなのですよ。
……わたくしにだけ、構想(こうそう)をお話してくれましたよね?
…………まいったなぁ。
そうしてお父さんは、景虎に手をさしだした。
おかえり、景虎。
お父さん……!
晩ごはんにしよう。食べたいものはあるかい?
ああ、それでしたらわたくし、高級と名高い、ボッタルガ・ムッジーナとかぼちゃのカペレッティを食したい気分です!
……。
お父さんの顔がかすかにひきつるのが、私には見えた。