部屋にさしこむ朝の光に、スズメの声。
ふとんがやけに、ぬくぬくする……。
部屋にさしこむ朝の光に、スズメの声。
ふとんがやけに、ぬくぬくする……。
うーん、今何時~……。
まだ六時ですよ、菓乃さん。
そっか、じゃあもう少し寝よ……って。
そこには、昨日わが家で暮らすことが決まった景虎が、私のベッドに当たり前のごとくもぐりこんでいて……!
きゃああああぁあ!!
私は、ふくれっ面をしながら、もくもくとご飯を口に運ぶ。
菓乃さん、なぜお怒りになるのですか?
以前は毎日、寝所(しんじょ)にまねきいれてくれたではありませんか。
よく考えて。アナタ今、見た目はいい年した、ほぼ人間のお兄さんだから!!
おや、意識してもらえるのですか。これは幸先(さいさき)がいいですね。
私の怒りなどどこ吹く風か、景虎はうれしそうに耳としっぽを動かしている。
……ごちそうさま!
菓乃さん、どちらへ?
……学校。今日、日直だから早く行かないと。
私は手早く身支度(みじたく)を整え、玄関から飛びだした。
行ってきまーす!
あ、菓乃さん……!
学校に到着した私は、教卓のお花を替え、黒板に名前を書きこむ。今日の日直、男子は誰だっけ……。
確認すると、名簿には“渕上(ふちがみ)はると”と記されていた。
はると、君……。
はると君は、かっこよくて、勉強もスポーツもできて……私のあこがれだった。
そんなはると君に喜んでもらいたくて、はると君の好きなラベンダー色の毛糸で、一生けんめいマフラーを編んで……一年前のバレンタインデーに渡した。
けれど……。
なにこれ、手作りチョコ? しかも手編みのマフラーとか……重すぎだろ。
……。
指で名簿の文字をなぞっていると、不意に教室の扉が開いた。
菓乃さん。
景虎!? どうしてここに!?
菓乃さんのいるところ、常に景虎あり。
どこまでもおともします!
ごめん、遅れた! ……って、今日は愛沢とか。
あっ……。
お、おはよう……、はると君。
はると君は、私の手をとる景虎に、不審そうな目を向ける。
え……っていうか、このお兄さんなに?
愛沢の知り合い?
え、えと、知り合いっていうか……。
どう答えたらいいか考えあぐねている私に、景虎は一歩前へ進みでて、優雅(ゆうが)に一礼する。
初めまして。近い将来、菓乃さんの夫になる予定の景虎ともうします。
……。
はると君は、ぽかんとした表情を浮かべた後、お腹をかかえて笑いだした。
あはは……っ。イイ年してばかじゃないの、このひと。
第一、お兄さん、この子はやめといた方がいいよ。去年ぼくに告ってきたんだけど、今時、ぼくの好きな色とかこそこそ調べて、怨念こもった手編みのマフラー、プレゼントしてくるんだよ? マジ重いっていうか!
……!
……っ!
私は、はずかしくて、いたたまれなくなって、教室から走りさった。
学校の門をでて、足がちぎれそうになるくらいの速さで駆けつづける。
発作的(ほっさてき)に車道へ飛びだすと、そこには、急ブレーキをふむトラックが――。
菓乃さん!!
がしゃん、と、衝撃音(しょうげきおん)が鳴りひびく。
どういうわけか、痛みを感じない。
そして、やわらかなぬくもりと、感触(かんしょく)。
ふしぎに思って、おそるおそる目を開けると……。
私を抱きかかえるようにした景虎が、血を流して地面に横たわっていた。
景虎っ!!
どんどん広がる血だまり。
私の……私のせいだ!
やだぁ……っ! 目を開けて、景虎……!!
菓乃、さん……。
景虎、景虎……!
わたくしはもう、だめみたいです。
そんなこと、言わないでよぉっ!
最期に、わたくしの夢、かなえてくださいませんか。
景虎はかすかに震える手で、ふところから、血で汚れた一枚の紙を取りだす。
これは……?
わたくしのお嫁さんになる、という契約書(けいやくしょ)です……。
今だけでも、どうしても……菓乃さんと夫婦(めおと)に、なりたいのです……。
……わかった。
私は、その紙に自分の名前を書きこむ。
景虎、私、お嫁さんになったよ。もう、ずっと一緒だよ……。
はい!そうですね♪
景虎は、契約書を私から受けとると、さっきまでの苦しそうな顔がうそのように、満面の笑みをうかべた。
!? ど、どういうこと!?
いやあ、今日は人生最良の日だ!
だ、だって、血が……いっぱい出て……。
あ、とっさに血のりをしこみました! なかなか本物らしいでしょう?
つまり……すべては私をお嫁さんにするための……おしばい!?
景虎~!!
いやですね、菓乃さん、“私の愛するだんなさま”、でしょう♪
もう知らない!!
恋愛不信に、拍車(はくしゃ)がかかった私、菓乃だった。
今に、心底わたくしにほれさせてみせますよ、マイハニー♪