6年前・・・
6年前・・・
”アルヴィド”森の中
見渡す限りの原生林が生い茂る森の中一人の女性が歩いていた。
さて、薬の配達も終わったし今週分なやるべき事は完了ね・・来週の薬の調合は少し日を空けたほうがちょうどいいしね。
今日は帰って夕食の支度しますか。
あとの時間はどう自堕落的で至福の時間を過ごそうかしら~♡
未完成の恋愛小説を完成でもさせようかな~待ってて~私の王子様~!
そう、6年前の母上である・・。
村に薬を配達し終え、帰宅後の予定に想いを耽りながら家路に着く中のことだった。
突如、道の脇の草むらから大きなモノが動いた・・。
明らかに小動物が動いたような草の揺れ方ではなく、根本からかき分けるように、背の大きい草などは音を立てた後、大きく傾いて静止していた。
・・そこに何かがいる・・・。
!?
今、かなり大きい生物が動いたわよね?
もしかして熊!?
襲われたらどうしよぅ・・。
と、とりあえず背を向ける訳にはいかないわね、すでに野生との戦いは始まっているのよ私!がんばるのよ私!!
怯えつつもその物体から目をそらさず直視を続けたのだった。
すると・・。
草むらに潜んでいた何かは、森の奥へと逃げるように急いで去っていった・・。
母上が草木の間から見えたその姿は・・人のようだった。
今の人よね・・?
良くは見えなかったけれど・・怪我もしているようだったわね・・それに私よりも背が低くて。
うーん・・迷い込んできた、犯罪者の可能性もあるし、村に戻ってきて知らせるべきかしら・・。
んん~~・・・・・。
少し考えたが母上・・追いかけることに・・。
HEY、そこの君~?
待ってーーー!!
はぁ・・やっと追いついた・・。
あなた、ここに居たら危ないわよ!
それに傷だらけじゃない、手当てしてあげるわ見せて?
走る人物を追い続け、ようやく疲れたのか立ち止まり、うつむいた、人物の全身を確認した。
年端のいかない少女のようだった・・この少女こそ後の赤ずきん、”ローズ・マクシミリア”である。
服は所々破け、多くの傷を膿んだ瘡蓋が覆っていた、しかもその傷の大半は明らかに人為的に付けられた打撲傷、爪でえぐられたような傷だった。
どんな、人物であれ、そのような状態を放っておけないだろうと、母上は手当するべく近寄るのだが・・。
近づいてこないで!!
声を荒く挙げ、母上の接近を拒むのだった。
・・・!!
激しい嫌悪を含んだその声に母上は怯み、その場に静止する・・。
・・・・・。
・・お願い・・何も危害を加える気は無いから・・・関わらないで・・。
すぐ・・遠くへ行くから・・。
我に返ったというよりは、振り絞って出した感情を噛み締め、自分を遠ざけるようローズは語りかけた。
でも・・酷い傷よ?
いいの・・私は・・その・・。
魔女に関わった、奇人の家族だとか、悪魔に憑りつかれた人間だとか言われたの?
大丈夫よ、ここにはそんな判断する風習は広がってないわよ?
前述したように、”アルヴィド”では魔女と人とが親密に関わり、教会側との技術提供の事もあり平和が保たれていたが。
世界では、魔女の弾圧、それに加え少しでも可笑しい行動をした者、教会を批判した言動をした者も魔女の影響を受けた存在として等しく過剰な弾圧を受けていた。
ちがうの・・・私は正当に魔法使いの血を引く”魔女”だから!
しかも、過去・・戦場で名を挙げた・・人殺しの家系の・・。
そう、魔女なのね・・。
うん・・だから・・。
少女が話してるのを余所に、母上は、先ほどローズが走り抜け荒らしてしまった草木の間から、つぶれてひしゃけた花を数本根元から抜いてきた。
なにしてるの・・?
~♪
母上が鼻歌を交えながら、そのひしゃけた花たちに手をかざすと、みるみるうちに生気を取り戻し、美しく咲き誇るのだった・・。
・・・!!
その様子を見て、少女を驚きの表情を見せた。
どう?私も何を隠そうアルヴィドの魔女よ。
だから、ここなら居ても大丈夫!!
それにあなたの言動から悪心抱く魔法使いとは思えないわ。
母上は自分も魔女だと打ち明け説得を試みたが、少女の表情にも感情が映りはじめた・・が。
それども・・だめ・・。
更に重苦しい表情を浮かべ言葉を濁した。
だが、不意に出そうになった感情を抑えきれず、ローズは、自己を遠ざける理由の根幹を声に出した・・。
・・だめよ・・私は人を殺してしまったから・・。
どうして・・殺してしまったの?
お願い聞かせて!・・私、あなたが邪悪に殺そうだなんて思える感情を持ち合わせてるなんて思えない・・!
それに話せば少しでも楽になるから。
どんな事でも、受け入れるから!!
・・・!!
母上の言葉に諭されたのか・・ローズは己の体験したできごとを語り出した・・。
ローズの家、マクシミリア家は古くから戦場で主に名を挙げた、人殺しの魔法使いの家系・・”呪術士マクシミリア”として世の兵卒、上流階級の貴族の間では知られていた・・。
しかし、魔女弾圧の時代と共に、魔女の味方へと行動したがため、危険な血族として真っ先にその対象とされたのだった。
そして、その逃亡生活の末、その血を引く者は次々と処刑され、遂にはローズの両親が捕えられ、ローズにも弾圧の牙が迫っていた・・。
魔女だ、この地に魔女が逃げ込んできたぞっ!
民たちに告ぐ!捕えた者には、陛下より恩賞も与えられるぞ
金髪の髪に青い瞳の女の子供だ!!
ああ、神よ奇病に命を奪われた我が子の、無念を晴らす機会を与えてくださった事を感謝いたします・・。
田畑を荒廃させた罪、償ってもらうぞ!悪人の一族をひっ捕らえるんだ!!
ローズは云われようの無い罪を押し付けられ、行き場のない場所逃げ続けた、時に囚われつつもなんとか命だけは取り留めている状態だった。
ぜぇ・・ぜぇ・・・。
この地もそろそろ人が居住する場所を過ぎ、一難を逃れたと思った時だった・・。
・・・ぁ!!
ふん、俺も運がいい・・一生野盗のまま暮すものかと思っていたが、魔女を捕えて英雄様だぜこりゃ・・くっくっくw
物陰に潜んでいた男に捕えられてしまうのだった。
嫌・・はな・・して・・・。
やなこった!!お前にはそこらへんの金品より価値があるわい!おとなしく引き渡せられやがれ!
激しく抵抗するも、大男の腕力には敵わず、抵抗空しく、軽く抱えられてしまいそうになる・・。
・・・だが。
っいてぇぇ!!
運よく、男が持ちやすいよう持ち手を変えようとした瞬間にローズが噛みつき、男がそれに耐えきれずローズを離したため難を逃れた。
生きようと必死の噛み千切るように噛んだ事も、この結果に繋がった一つだった。
・・っむぐ・・はぁ・・はぁ!!
不意に投げ出された事もあり、着地には失敗したものの、急いで起き上がり、ローズは死にもの狂いで逃げ出した。
あんの
ガキィぃぃぃぃぃ!!
歯型がクッキリと残った腕を抑えつつ、雄叫びを挙げた男は、ローズが走り始めてから少し間を置いて憎悪と共に疾走しローズを追いかけた!!
やはり、身体能力は劣るローズは逃げ切れず、頭から掴まれ、地面にたたきつけられた。
・・ぐっ!!
いてぇいてぇ・・捕まえたぐらいじゃ気が収まんねぇなぁ!!
オラぁ!!
・・ぁ゛・・っう゛
男は仰向けのローズの膝の上から馬乗りになり、力のままにローズの顔面を殴打した・・。
・・・・・。
その後数十秒の間、男は無言のまま怒りをあらわにローズを睨み、執拗に殴り続けた・・その後・・。
あ~、くそ!!
むしゃくしゃするぜっ・・!
・・ぅぅ・・!
すでにこと切れて、成す術がないローズに男は更なる行動をとる・・。
死体でも・・報酬は貰えるよな・・魔女退治の英雄だもんな・・くっくっくw
・・・へ?
・・と、男は何をそんなに勘に触れたが分からないが、瀕死の赤ずきんに対し、おもむろに懐から刃物を取り出し、男の左手がローズの首根っこを鷲頭掴みにした・・!
迫る、男の血走った形相がローズに本当の殺意があると悟らせた・・右手は今にも振り下ろそうかと力み引き絞られているのがローズには見えていた・・。
やだ・・やめて・・死にたくない・・!
けど、どうしようもないよ、どうしたら・・いいの?
パパ、ママと約束したの・・私が、逃がしてくれた2人の分まで生きるって・・。
と思考している間に、男は刃物を振り上げ終わっており、奇声を挙げ振り下ろした・・!
アアアアアアアアアア!!!
死にたくない!!!
肉塊を貫く重い音を立て両者は少しの間硬直していた・・。
う・・うううぅぅぅん゛ん゛・・。
男は口から鮮血を垂らし、声にならない唸りを挙げその場に崩れ落ちた・・。
・・・・?
血しぶきが、あたりに飛び散った・・。
血が吹き出したのはローズではなく、男からだった、ローズの朦朧とした視界に移っていたのは、深々と男に突き刺さっている自分から湧き出た枝木のような漆黒の物体だった・・。
何よコレ・・私がやったの?
漆黒の物体はローズが我に返ると、煙の如く雲散していった・・。
それと同時に男の体から血があふれ出た・・。
おじさん、起きて・・死んだらだめ・・殴られたのはとても痛かったけど・・・生きて・・よ・・。
しかし、ローズがいくら体を撫でても、男はピクリとも動かなかった・・。
・・・私が・・。
おい、こっちの方から物音がしたぞぉ!!
・・・!!
大勢の足音がこちらに迫ってくるのが分かった、考える間もなく、ローズは走り出していた・・。
一通り話終えた後・・ローズは巻き戻しと再生を繰り返すように同じ言葉を繰り返していた・・。
私が・・殺した・・。
・・・・。
私が・・殺した・・。
・・・やめるの・・!!
私が・・殺した・・。
でも、それは・・自分を守るためしかたなく・・!
...私が・・。
事故だった・・許されるかもしれない罪なのは分かってるの・・わかってるけど・・消えないの・・。
人を殺した感覚が・・私・・経験してしまった、人体を貫く感覚・・が微かにあった・・。
私・・・私は・・
正当防衛・・許されるかもしれない・・。
だが、ローズは殺人に身を汚したと思ったその日から、その光景がすべての思考を塗り替えるようにフラッシュバックし、片時も忘れられずにいた・・。
「私が・・殺した」・・何回呟いたのだろう・・。
まるで、あの事件の場に心だけを置き去りにしてきたかのように・・。
ローズは自らの罪を只々、直視し続けていた・・。
ぁぐ・・・はぁ・・はぁ・・。
うああああああああああああぁぁぁぁ!!
第2話-【3】へ続く・・。