「簡単に言うと"もう一人の自分"ってとこかな?、それに会うと死ぬらしい。お前のさっきの話を聞く限り一番しっくり来るのがそれなんだよね。」

と言うとこう続けた。

「お前芥川竜之介知ってるよな?

自殺する前の最期の作品の『歯車』って作品の有るシーンに歯車がどうとかこうとかっていうのが出てきてな

さっきドッペルゲンガーっていったけどあれはドイツ語で英語に直訳すると

"double gear"

二つの歯車って意味になってな

俺が思うに自分と全く同じもう一つの歯車
人生の歯車。
よく歯車が狂ったとかも言うからな。

そのもう一つの歯車に芥川は押しつぶされたんだろう。
もう一人の自分にな。
有る意味自分の影に殺された俺はそう考えてる
ノイローゼ気味だったって話もあるし

って聞いてるか?……」

いつの間にか僕は自分の部屋にいた。

確かに西倉の話は聞いていた…でも…気がつくと部屋にいた。

その間の記憶がすっかりない

覚えているのは住職の話と西倉の話。
薄れゆく意識の中で

「…有る意味自分の影に殺された…殺された…殺された…」

と西倉の声が頭の中でリフレインする…
時計を見ると三時間以上お寺を出てから経っている…

西倉は僕がこの部屋に住んでいる事を知らないわけだから

自分で帰ってきたんだろうな。


ただ

「殺されたんだ…」

というフレーズが永遠に繰り返す…


そうしてるうちにも時間は刻々と過ぎていく…


静かな部屋に秒針の音が響き渡る…

傾く夕陽だけが部屋の明かりだ。


オレンジ色に染まった部屋で一人何もする事が出来ず…

天井を見上げ寝ころんだまま時間が過ぎるのを待つ…


次第にオレンジ色に…

藍色…。

そして黒に…

やがて月明かりに変わると急に体の感覚が戻ってきた

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