夜の街に、人は居ない。明かりがない事には慣れていたが、今だけは夜でなければ良いと、ケットは思っていた。
そうすれば、少なくとも日が落ちるまでの間、シンはここに留まっているだろうと思うのに。
シンは、ただ夜の街を散歩していた訳ではない。……わざわざ、そんな事はしない。あの時シンは、逃げようとしていたのだろう。
何にかは分からないが、とにかく現実のようなモノから。
あの時、ヴェルツァイェ帝国の夜に、現実から逃げようとした二人の人間と、一匹の猫が居た。そのうち一人は死に、一匹の身体が入れ替わった。
まるで夢のような出来事が、現に起きているのだ。