本物のリードじゃないから、
ヒモはどこまでも伸びるようだった。

早くこっち側をフサの首輪に付けなくちゃ!



私は全力疾走し、程なくフサに追いついた。
チーシャは相変わらずその前を逃げ回っている。
 
 

眠井 朝華

チーシャ、お疲れ様。
ゆっくり休んでて。

チーシャ

遅いよっ、もうっ!

眠井 朝華

はいはいっ! ゴメンね~♪

 
私はフサから少し離れた前方で立ち止まった。

そしてじっくり待ち受け、
タイミングを見極めてジャンプする。
 
 

眠井 朝華

たぁっ!

フサ

わぅっ!

 
――避けられたっ!

それどころか体当たりを受けて
私は弾き飛ばされてしまった。


そのまま地面に叩きつけられ、体中が痛む。



フサのすごく悲しい気持ちが流れ込んでくる。
こんなに苦しいなんて……。

でもこれくらいなら、まだ耐えられるッ!
 
 

眠井 朝華

まだまだぁっ!

 
私は再度、フサに向かって飛びかかった。
でもまたしても避けられ、反撃を食らう。

これは私の動きが鈍くさいんじゃない。
運動能力は強化されているんだから。



フサの反応が機敏すぎるんだ……。




それでも私は諦めず、何度もチャレンジした。

なのにその全てが不発に終わり、
とうとう痛みで体が動かなくなってくる。
 
 

眠井 朝華

う……うぅ……。

 
歩み寄ってくるフサ。
次に攻撃を受けたら、私はやられる……。

もはやこれまでか――と、思った瞬間だった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

金鞠 大介

フサッ! ダメだよっ!

 
 
 
 
 
 
 
 

フサ

……っ!?

 
いつの間にか金鞠くんが私たちのすぐそばまで
やってきていた。
顔は引きつり、足はガクガク震えている。
でも今はしっかりとフサを見ている。


声に反応したフサは足を止め、
彼の方を振り向いた。
 
 

金鞠 大介

こ……こっちに……。

フサ

…………。

金鞠 大介

おいで……。

 
フサはゆっくりと金鞠くんに歩み寄った。
彼らの距離はどんどん縮んでいく。



10メートル……5メートル……2メートル……
1メートル……50センチ……10センチ……。

そしてついに……。
 
 
 
 
 

 
 

金鞠 大介

フサっ!

 
金鞠くんはフサを優しく抱きしめた。
その瞳から止め処なく涙が溢れている。

フサも彼のことを心配するように
クゥーンと小さく鳴いている。



――その後、
金鞠くんは私から祈綱のもう片方を受け取り、
フサの首輪に付けた。

これで意思疎通が出来るはずっ!!
 
 

金鞠 大介

フサ……。

フサ

大介くん……。

眠井 朝華

っ!?

 
不思議なことに私にもフサの声が聞こえてきた。


これってイイユメツールの効果なのかな?

それとも金鞠くんたちの想いが
溢れ出てきているからなのかな……?
 
 

金鞠 大介

僕のこと、恨んでいるんだろ?
ゴメン……ゴメンな……。

フサ

恨むわけ、ないじゃないかっ!
大介くんは何も悪くないっ!
周りに注意していなかった
僕が悪いんだ!

フサ

そのせいで大介くんを
悲しませちゃってゴメン。
そのことを謝りたくて、
伝えたくて追いかけていたんだ。

金鞠 大介

えっ?

フサ

僕のこと避けているから、
嫌いになっちゃったんじゃ
ないかって気にはなってた。
でも大介くんは
そんな寂しい人じゃないって
僕は誰よりも知ってる!

フサ

だから追いつければ
きっと伝えられるって信じてた。

金鞠 大介

フサ……フサっ!
僕、その気持ちが分からなくて、
誤解して逃げてたっ!
ゴメンよっ!

金鞠 大介

今でも僕はフサが大好きだよっ!

フサ

ありがとう。
僕も大介くんが大好きっ!

 
 
 

 
 
そう優しく述べたフサは
淡い光に包まれていた。
そして姿が少しずつ薄くなっていく。

向こう側の景色が透けて見えている。
 
 

金鞠 大介

どこへ……行くの?

フサ

そろそろお別れの時間みたい。

金鞠 大介

待って! 行かないでよっ!

フサ

この世界ならいつでも会える。
いつでも遊べる。
大介くんがまた
僕の夢を見てくれるなら。

金鞠 大介

見るに決まってる!
そんなの当たり前だよっ!

フサ

じゃ、ちょっとだけの
サヨナラだね。

金鞠 大介

絶対にまたフサの夢を見るよ!
今度は一緒に遊ぼうっ!
眠ってから起きるまでずっと!

フサ

もちろんだよっ♪

 
そう言い残してフサの姿は消えた。


最後の瞬間、フサは私の方を見て
満足そうに笑ってくれたような気がした。

その場には私と金鞠くん、チーシャが残される。
 
 
 
 
 

金鞠 大介

キミの言う通りだったね。

眠井 朝華

うんっ!

金鞠 大介

逃げてばっかりじゃなくて、
受け止めてあげるべきだった。
信じてあげるべきだった。

金鞠 大介

フサはずっと僕を見ていたんだ。
きっと僕も無意識のうちに
フサを見ていたのかもしれない。

眠井 朝華

だね、きっと♪

金鞠 大介

もう逃げないから、僕!

金鞠 大介

それとキミが僕のことを
本当に心配してくれてるんだって
祈綱から伝わってきた。

眠井 朝華

っ!

金鞠 大介

ありがとうっ!

 
金鞠くんは涙を流しつつ、
柔らかな笑みを浮かべて私を見つめていた。


そっか、フサに繋ぐまでは
私と金鞠くんがそれぞれ端を
持っていたんだもんね。

気持ちが伝わっちゃったのか……。



――なんかすごく照れくさい。
 
 

眠井 朝華

あ……。

 
 
 
 
 
……もうすぐ金鞠くんの目が覚める。

それが私には分かった。



次第に世界には
白いモヤのようなものが広がってくる。
すでに金鞠くんの姿は見えない。
 
 

チーシャ

お疲れ様、朝華。
今回の夢はキミにとっても
成長に――

 
チーシャの声が途中で途切れた。

そのまま私の意識も薄れていく……。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 

眠井 朝華

…………。

 
目を開けると、
そこには保健室の天井が映っていた。

背中にはベッドの程よく柔らかな感触、
鼻には薬品の臭いが漂ってくる。

――うん、目が覚めたみたい。



私が上半身を起こすと、
その直後にカーテンの開く音が聞こえてくる。
 
 

安武先生

あら、金鞠くん。起きたのね。

金鞠 大介

はいっ!
ご心配をおかけしました。
もう大丈夫ですっ!

金鞠 大介

では、教室に戻りますっ!

 
その後、ドアの開閉する音が響いて
再び保健室は静かになった。

それを確認してから
私もカーテンを開けて外へ出る。
 
 

 
 
 
次のエピソードへ続く!
 

瞳に映るその先に……(4)

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