ようやく金鞠くんは足を止めてくれた。
そして遠慮がちに私に声をかけてくる。


まだ戸惑っているんだろうな……。
 
 

金鞠 大介

あ、あの……
助けてくれてありがとう。

眠井 朝華

そんなに犬が嫌いなの?

金鞠 大介

……怖いんだ。犬の目が。

眠井 朝華

犬の目?

金鞠 大介

さっきの犬、
前に僕が飼っていたんだ。
毛がフサフサしているから
フサっていう名前を付けた。

眠井 朝華

ふーん、そうなんだ。

金鞠 大介

でも1年前、
自転車にひかれて死んじゃった。

金鞠 大介

きっとフサは今も僕のこと、
恨んでいるに違いない。
僕を責めているような目を
しているもん。

金鞠 大介

あの目で僕をジッと見つめて、
いつまでも追いかけてくるんだ。

眠井 朝華

それで逃げていたわけね。

眠井 朝華

でも自転車にひかれたのって
事故なんでしょ?
なんで金鞠くんが恨まれるの?

金鞠 大介

それはね――

 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
突然、目の前の空間が揺らぎ始めた。

大きさは1メートル四方くらい。
そこには金鞠くんとフサの姿があって、
まるでテレビのように映像と音が流れ出す。

場所はここと同じ河川敷みたい。
 
 

フサ

わんわんっ!

金鞠 大介

フサ、遊びたいのか?

フサ

わんっ!

金鞠 大介

でもリードを外しちゃダメって
言われてるんだよなぁ。

 
金鞠くんは眉を曇らせ、オロオロしていた。


リードを外そうかどうか、迷っているんだね。

確か法律か条令か何かで
犬を放し飼いにしちゃいけない決まりに
なってるもんね。


しばらく考え込んだ挙げ句、
彼はフッと頬を緩めてフサを見下ろした。
 
 

金鞠 大介

でも周りに誰もいないから
ちょっとくらいならいいか!

フサ

わんわんっ!

金鞠 大介

あははっ、嬉しそうだな。

 
金鞠くんはフサのリードを外した。


するとフサは元気に飛び上がり、
彼の周りを走り出した。

尻尾も千切れちゃうんじゃないかってくらいに
激しく振っている。
 
 

金鞠 大介

よーしっ、
このボールを取ってこ~い!

フサ

わんわんっ!

 
金鞠くんはポケットの中から取り出した
カラーボールを遠くへ放り投げた。

フサはボールへ向かってまっしぐらに
走っていき、
それを咥えるとすぐに彼の元へ戻ってくる。
 
 

フサ

ハッハッ……♪

 
金鞠くんはボールを受け取ると、
満面の笑みでフサを撫でた。

フサもすごく嬉しそう。
 
 

金鞠 大介

よしよしっ!
じゃ、もう1回だっ!

金鞠 大介

そーれっ!

フサ

わんわんっ!

 
再びフサは飛んでいったボールめがけて
真っ直ぐ走っていた。


でも今回はフサのすぐ後ろから
自転車に乗ったおじさんが猛スピードで
近付いてきている。


このままだとぶつかっちゃう!
 
 

金鞠 大介

あっ! 危ないっ!

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

フサ

ぎゃん!

 
 
 
 
 
 
 
 

金鞠 大介

フサっ! フサーッ!

 
その場に倒れて動かなくなるフサ。

そしてフサに駆け寄り、
抱きかかえていつまでも泣いている
金鞠くんの姿があった。



映像と音はそこでプツリと途切れる。
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

金鞠 大介

……僕のせいでフサは
自転車にひかれちゃったんだ。

眠井 朝華

でもそれはタイミングが
悪かっただけで……。

金鞠 大介

僕の責任だ!
だからフサは僕を恨んで
ずっと追いかけてくる!

眠井 朝華

…………。

眠井 朝華

それでいつまでも
フサから目を背けて逃げてるわけ?

眠井 朝華

なんでフサを
受け止めてあげないの?

金鞠 大介

えっ?

眠井 朝華

金鞠くんとフサって
仲のいい家族だったんでしょ?
だったらフサが金鞠くんのこと
恨んでるわけないじゃない!

眠井 朝華

きっとまた金鞠くんと
遊びたいだけなんだよ。
だから追いかけてくるんだよ。

金鞠 大介

あ……。

眠井 朝華

ちゃんと向き合って
フサを受け止めてあげなきゃ!

金鞠 大介

でも恨んでいないなんて
分からないよ……。

眠井 朝華

だったら直接、
フサと話をすればいい!

 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
私が強く念じると、
手の中に1本のリードが現れた。
陸上の巻き尺みたいにすごく長いヤツ。

そして首輪に付ける側の先端を私が持ち、
反対側を金鞠くんに手渡す。
 
 

金鞠 大介

このリードは?

眠井 朝華

祈綱(きづな)っていう
イイユメツールだよ。

金鞠 大介

イイユメツール?

眠井 朝華

これを使えば意思疎通が出来るの。
それをずっと持ってて。
こっち側は私がフサの首に
付けてくるから。

 
私はその場に金鞠くんを残し、
フサに向かって走り出した。
 
 

 
 
 
次のエピソードへ続く!
 

瞳に映るその先に……(3)

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