ドアを開けて中に入ると、
そこは近所の河川敷にそっくりな場所だった。
ただ、あちこちの景色が揺らいでいて、
ハッキリしない。
それと気になる点がもうひとつ――。
ドアを開けて中に入ると、
そこは近所の河川敷にそっくりな場所だった。
ただ、あちこちの景色が揺らいでいて、
ハッキリしない。
それと気になる点がもうひとつ――。
やっぱりこの格好かぁ……。
分かっていたこととはいえ、
やはり私は例の格好に変身していた。
今の時代、
商品が気に入らなければ返却や交換が
出来るのが当たり前。
それがダメだなんて
サービスが悪いったらありゃしない。
メモリが足りないなら、
秋葉原のお店でパーツを買ってきて
増設しろっての!
まだ文句を言ってるの?
それに僕のメモリは増設不可。
パソコンじゃないんだから……。
出た……。
露骨に嫌そうな顔をしないでよ。
パートナーなんだからさ。
勝手に私の心を読まないで!
だから嫌がってんの!
OH! ワタシ、
ニホンゴ、ワカリマセーン!
……皮を剥いで
三味線にしてやりたい。
そんなことより、
悪夢の方は解決しなくていいの?
無駄に時間を使っている余裕は
ないと思うんだけど?
――確かにそうだ。
金鞠くんの目が覚めてしまったら、
悪夢を取り除くことが出来なくなってしまう。
チーシャの漫才に付き合ってる暇なんてない。
……チッ!
舌打ちはお行儀が悪いよ、
朝華……。
私はチーシャをシカトして意識を集中し、
この世界への干渉を強める。
すると徐々に世界の揺らぎが止まって
世界が明瞭になった。
ふぅ……。
力をうまく操れるように
なってきたね。
まぁね。それよりも
金鞠くんはどこにいるのかな?
私は辺りを見回した。
するとすぐに
土手の上の道を動く2つの影に気付く。
ひとつは金鞠くん、もうひとつは犬……。
夢の中でも彼は
犬に追いかけられているみたいだった。
ゴメンっ! ゴメンよっ!
だから追いかけてこないでっ!
わんわんっ!
どうやらあの犬が
彼の悪夢の元凶のようだね。
追いかけるわよ!
僕も犬は苦手なんだよなぁ。
つべこべ言わないのっ!
私はチーシャの首の後ろを掴み、
金鞠くんたちを追いかけた。
さすがにこの格好をしている時は
運動能力が上がっているからスピードが出る。
あとは恥ずかしささえなんとかなればなぁ。
それからあっという間に彼に追いついた私は
併走しながら声をかける。
金鞠くん、待って!
うわぁっ!
変なモンスターと猫まで
追いかけてきたぁ~っ!
モ、モンスターって
誰のことよ……。
キミのことに決まってるだろ、
朝華っ♪
は? 猫は私だもん!
モンスターっていうのは
チーシャに決まってるでしょ!
……やれやれ。
どっちでもいいよ。
それより彼の足を止めないと
ゆっくり話も出来ない。
それもそうね……。
私は気を取り直し、
あらためて金鞠くんに話しかける。
金鞠くん、
私はあなたの味方よ。
だから話を聞かせて!
……そ、そうなの?
まずは立ち止まって。
でも追いつかれちゃうよっ!
犬は逃げるものを
追いかける習性があるのよ。
だから走るのをやめないと、
いつまでも追いかけてくるわよ!
でも……でも……
怖いんだよ……。
大丈夫、私に任せて。
私は首を掴んでいるチーシャの顔を見て
ニッコリと微笑んだ。
するとチーシャはビクッと体を震わせる。
な、何その笑顔?
嫌な予感しかしないんですけどっ!?
チーシャ、しばらく囮になってっ♪
はいぃ!?
そぉれっ!
私は犬の前にチーシャを放り投げた。
すると犬は視線をチーシャの方に向け、
そちらを追いかけ始める。
――うん、作戦はうまくいった!
鬼ぃ~! 悪魔ぁ~っ!
遠くから何か聞こえたような気もするけど、
聞かなかったことにしよう。
もし追求されたら、
その時は黙秘権を行使しようっと♪
次のエピソードへ続く!