Episode6 彼女の欠点

     
 


 そして日曜日――。

 不安がっていた割に、徹は結構うきうきして待ち合わせ場所に向かっていた。

しっかし、どこでご馳走してくれるんだろ。いい場所があるって言ってたけど………。

安くて量が多い店かな?
ハンバーガーとか肉系あるといいなー。

 食べ盛りの徹にとって、ご馳走は魅力的だ。外食なら尚更である。

 というのも母が菜食主義のため、雲母家の食卓も自然と野菜が多くなる。肉が大好きな徹はそれが少々物足りない。だから気にせず食べれらる外食は大好きなのだ。

時間早いし、美味い店ってのは間違いないだろ!

 待ち合わせの時間は朝8時。昼には早すぎる時間なので、混みあうぐらいに美味くて人気店なのだろう。

 はやる気持ちを抑えきれずに、徹は歩く速度を上げた。

 美味いもののためなら、長蛇の列に並ぶのも苦にはならないのだ。


  
 

 

 

 やがて大通りを出ると、目的の場所が見えてきた。


 
 徹の自宅からすぐ近くの高級ホテル前。それが闘子が指定した場所である。

 レトロな造りの門前には既に闘子が待っていた。彼女はスマホを弄りながら徹の訪れを待っている。そわそわしているのが遠目にもわかって、徹はくすりと笑った。

 『ついたよー』と連絡を入れてやる。闘子はすぐさま反応し、スマホから顔を上げて目を輝かせた。

徹君、おはよう!

おはよー、先輩!

へー、意外。
先輩の私服ってカジュアル系なんだ。

うん、今日はね。

可愛いなー。
まーこういう人は何着ても似合うんだろうけど……。

じゃ、いこっか!

 と言って、闘子はためらうことなくホテルの敷地内へと入って行く。

 当然徹はぎょっとした。

……!?
ここで食うのか!?

あのー、先輩、まさかこのホテルで食べる……わけないですよね?

まさか!
ここじゃないよ。こっちこっち!

まあそうだよな。
第一こんな格好で入れないだろうし……。

いやでも敷地内に入る必要があるのか……?
先輩の考えがさっぱり読めない……。

 内心疑問だらけではあったが、徹は大人しく闘子の案内に従い敷地内に足を踏み入れた。

 豪華な噴水を通り抜けて更に駐車場を通り抜ける。その隣にあるコンクリート造りのだだっ広い場所で、闘子が足を止めた。

 そして彼女は空を見上げて呟いた。

あ、ちょうど来たみたい

 その言葉に、徹も彼女と同じように空を見上げる。そこで徹が見たものは――



ヘリ!!?

これに乗って行くんだよ

ヘリで行くのか……

 唖然とする徹に気づかず、闘子は着地したヘリに手を振っている。

 ややあってドアが開き、ピシッとした姿の女性が顔を覗かせた。どうやら彼女が操縦士らしい。

闘子さん、おはよう。
ちょっと遅れちゃってごめんね。

そんなことないですよ。
時間ぴったりでした!
北山さん、ありがとう!

いえいえ

すっげーなあ……。
闘子先輩って、ここのホテルのお嬢様……?

 ここに越してきたばかりで、徹は土地事情に詳しくない。しかしこのようにホテルやヘリを私用で使うなんて、そうとしか考えられなかった。

じゃ、乗って下さい。
お友達もね

あ、はい……

 徹はちょっと引いていた。たかが絆創膏一枚のことでヘリを出されるなんて、夢にも思わない。


 そう、闘子の欠点というのはこれだった。

 残念なことに、彼女は恋をするとTPOやら常識が見えなくなってしまうのだ。

 恋は盲目とはよく言ったものである……。

  
  
 

 何はともあれ、初めてのヘリコプター体験だ。せっかくだし徹は空の旅を楽しむことにした。

 ヘリの中は、闘子が連れている+αがいても(もっとも霊体なのであまり関係ないが)余裕があるくらいに広々としている。シートは上等な黒革を使っており、座り心地と乗り心地は中々のものだった。

 肝心の居心地も、意外なことに悪くない。

 それもこれも、心配していた守護者たちの動向が大人しいためである。彼らは徹のことを放っておいても平気だと思ってるのか、思い思いに過ごしていた。

 狐の守護者は小さくなって、一匹は闘子の肩の上に、もう一匹は膝の上で丸くなってのんびりしている。

キューン♪

キュゥ……

 女性ふうの守護者うっとりした顔で闘子を見つめ、侍女のように彼女の足下にかしずいていた。

……

 そうして毛並みのいいペットと侍女を侍らせ、ゆったりと椅子に座っている闘子の姿は様になっている。様になりすぎていて、徹は思わず笑ってしまった。

 だってまるで――

お姫さまのようだな……

しかし意外だ……

……

 忘れてはならないもう一人。闘子が背負っている一番の厄介な奴、狐男風の神さまは、ヘリコプターの中を物珍し気に見回している。

一番べったりしていそうな感じなのに……

ん?
待てよ……

先輩ってよくヘリに乗るの?

たまにね

なるほど……

 ということは、闘子にこの神が憑いたのは、ごく最近ということになる。彼女にずっと憑いているのならば、ヘリコプターなど珍しいこともないだろう。

先輩、ちょっと変なこと聞くけど、最近何か不思議なこと、なかった?

うーん、特にないよ?

じゃあ、神社とかよく行く?

うん。
蓮美神社ってところによく行くよー

そこに祀られてるのって狐の神さま?

そうだよ。
よくわかったね。

じゃあこの神さまってそこの神社の……

じゃ、そこの神社で最近変わったことは……?

いなくなっちゃったと思った友達が来てくれるようになったことかな~。
珍しい白い狐なんだよ!

!?

そういえば、神様にまつわるものすごく嫌な話があったな……

どうかした?

青い狩衣を着ていて、耳と尻尾を付けた白髪の男って見たことある……?

……

ないよ。
有名なコスプレイヤー?

まあそんな感じ……

……

 確か神に憑かれた人間は、神が見える状態になると良くないことがある、ということを祖父から聞いたことがある。

 しかし闘子には彼の姿はまだ見えていないようだ。徹はほっと胸を撫で下ろした。




 

 
 そして30分後――

あ、そろそろ着くよ!

へー、綺麗な……

山だね……?

 徹が連れてこられたのは山だった。春の花々が咲き乱れ、湖のある美しい所である。

何故山!?

ここで何すんの?
店、ないよね?
バーベキュー?
いや、二人でそれはないか……。


 ますます訳が分からなくなる徹であった……。

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