Chapter5 特異体質キララ

  

 

 初めて闘子を見た時、徹は――

うう……

うっわー……、すっげー綺麗な子

 と思った。そしてそのすぐ後に思ったことは――


 
   
 

  
  

グルルル……

グルルル……

………

何これ……

 滅茶苦茶怖い、その一言に尽きた。

 
 それらが現れたのは、闘子を目に入れた瞬間だった。彼女の背後から白煙が立ち上り、一瞬の光の後、彼女を守るように立ちはだかったのだ。

 彼らは徹を警戒するように、睨み、恐ろしい唸り声を上げている。


 
  

あれは妖怪……?
いや、守護者か……

 かなり上級の存在であることは明らかだ。敵意を向けられただけで、酷い悪寒がとまらないのだから……。


 

  
  
  



 徹はそういうものが視える体質。いわゆる霊視ができる人間だった。

 母が神社の娘だったせいだろうか。彼女にもそういう力があるし、そしてそれは徹にも遺伝した。

 そのため、幼い頃から不思議なものをたくさん見てきたのだ。

 もちろん視えるが故に、危険な目に遭ったこともある。今まで無事でいられたのは、母方の祖父が持たせてくれたお守りと、彼が教えてくれた対処法のおかげだろう。

  
  
  

 
 そして今みたいに、守護者に敵意を向けられた時は――

 
  

俺には彼女を傷つける気はないんで!

 笑顔を浮かべて心の中で危害を加えたりしない、と念じることだ。

……

……

……

 すると彼らは一斉に鎮まり、徹への威嚇をやめた。徹はほっとすると同時に、闘子に対して同情した。

これじゃ、普通の人は近寄れないだろうな……

 目には見えなくても、今みたいな敵意を向けられたら皆悪寒を感じるはずだ。そして彼女は恐ろしいものと認識されて、悪いイメージを持たれてしまうだろう。

可哀想に…………ん?

 この時の闘子は泣いていたせいもあって、徹にはとても不憫な人として印象に残ったのだった……。

あ、大丈夫ですか?
血が出てますよ。

  
 

 

 

 そして翌日――
  

 

 


 彼女は再び徹の目の前に現れた。先日よりも凄いものを伴って。
 
 
 

……えっと、雲母君と遊びたいための口実、だったりするんだけど……だめかな?

あれ、な、何か……

……

……

……

……

増えてらっしゃる……!

 最後の一人は明らかに妖怪の類ではない。神々しい気を纏った、みたまんまの神さまである。

 しかもこのイケメン神さま、徹のことをごみを見るような目つきで見ているのだ。

まるで圧迫面接を受けているようだな……!

 これは断れと言うことなのだろうか。それとも断ったら殺されるのだろうか。

 正直、闘子が照れくさそうに誘ってくれる姿にはぐらっときたが、命がかかわるとなると話は別である。徹は非常に迷った。

怖いしお断りしたい……!
どうする、俺……

フッ……

 徹の怯えを感じ取ったのか、いけすかない神が徹を鼻で笑った。まるで臆病者、とでも言っているように。

 それを見た瞬間、徹の口からは承諾の言葉が自然と零れていた。

……じゃ、有難くご馳走になろうかな

 ちょっとした対抗意識だった。例え神さまだろうとも、変な目で見られるのはムカつくし、鼻で笑われるのは尚のことだ。

 そんなことを考えていたら、ますます腹が立ってきた。

 さっきも教室で感じたが、闘子に対する周りの反応はあまりにも可哀想だ。そして明らかに異常な状態なのに、男子も女子も気が付かない。おそらくこの神の力のせいだろう。

 この人のことを大切に思ってるんだったら、威嚇するのをやめさせてやれよ、とか、悲しませるなよ、と徹は心底思った。

……


 イケメン神は徹の心を読んだのか、きつく睨んできた。しかし徹は気にしない。

 よく考えてみれば、別に自分は彼女に害を働くわけじゃない。だから一々びくびくする必要などないのだ。

 

まあ多分大丈夫だろう……

 そう、きっと、多分……。

   


   


 闘子と別れて教室に戻ると、徹はクラスメートに囲まれた。何故か皆口々に大丈夫だったか? と言うのだ。

 しかしそんなことを言われても、徹は何のことだかさっぱりわからない。

大丈夫って何?
何の事?

お前、ブルに連れていかれたじゃん

ブル……って鷺山先輩の事!?

そーだよ! ブルドーザーのブル!
あいつの通った後には草木一本残らないってな

酷いあだ名をつけるなあ。
何でそんな風に呼ばれてんの?

ちっげーよ、暗殺者だろ、暗殺者!

暗殺者!?

気に入らない男は再起不能にするって話だ。実際に通り魔を再起不能にしたんだぜ?

ああ、あの人、柔道と空手、
黒帯らしいしな……。
実家は極道って噂も……

それはマジだと思う。
人相の悪い親父が黒塗りの車に乗って迎えに来てたとこ、俺見たし……。

 クラスメートは顔を突き合わせて、ひそひそと闘子の黒い噂話で盛り上がっている。

 この異様な状態に、徹は頭を抱えた。

何だこの噂。酷すぎる……。
鷺山先輩があまりにも哀れだ……

 闘子の誘いを断らなくて良かった、と徹は心底思った。彼女の悲しむ顔は、どういうわけか身に応えるから……。

 

しかし神さまに好かれるっていうのも考え物だなー……

 
 身体的には守られていても、現状を見る限り精神的には確実によろしくないだろう。

 ここで関わったのも何かの縁。何とかしてあげられたらな、と思うが、相手は神さまである。徹にはどうすればいいかなんて、皆目見当もつかない。

今度じーちゃんに聞いてみるか……


 現職の神主である祖父ならば知識も豊富だし、いい考えが聞けるかもしれない。今は旅行中なので生憎聞けないが、戻ってきたら尋ねてみよう、と徹は心に決めた。

 
 側では相変わらずクラスメートが噂話を続けている。これ以上は聞くに堪えないので、徹は無理やり割り込んで話題を変えたのだった……。 

 

Episode5       特異体質キララ

facebook twitter
pagetop