神谷優

俺の女。

ドアが開かれ、入ってきたのは
すっかり存在を忘れていた優だった。

橘杏子

は・・・?何言ってるの

神谷優

杏が照れ屋だから、
中々言い出せなくて・・・


ね?杏

話を合わせろと言わんばかりの口調で
私へ無言の圧力をかけてくる。

橘杏子

何、考えてるんだよ

田中夏子

そうなんだね・・・

明らかにテンションが下がったように
目を伏せる少女をよそに
私は、ちらりと結城の方を見た。

坂田結城

・・・。

橘杏子

なんで・・・
何も言わないんだろう。

なんかやっぱりおかしいや・・・私

橘杏子

うん、そうだよ
私たち付き合ってるの

咄嗟に出た言葉は私の本当の気持ち
蓋をするための嘘。

こんなの私、最低じゃん。
夏子さんの気持ち、知ってるのに。

坂田結城

そうだったんだ?
知らなかったよ。
ごめんな、邪魔して
行こうぜ、夏子。な?

田中夏子

そうだね!
お邪魔だもんね、私たち。

明らかに無理して笑ってるように見える。
わざと大きな声で言っているのかもしれないが
語尾が微かに震えている。

夏子さんは泣きそうなのかもしれない。

橘杏子

ねえ、どういうつもり?
あんたあの子の気持ち
知ってるんでしょ?

神谷優

だったら、何?
少なくとも貴方に責められる権利はないですよね。あなたも嘘を吐いたんだから。

橘杏子

私も最低ね

神谷優

僕のせいだけにして
自分だけ逃げるつもりだったんなら
大人なのに汚いですね。


いや、大人だから汚いんでしょうか

橘杏子

でも、なんで咄嗟に嘘ついたんですか

神谷優

嘘に理由っていりますか?
隠したいことがあるから
嘘を吐くんでしょ?

橘杏子

隠したいこと?

神谷優

夏子の気持ちに
応えられないってことです

でも、直接言ってしまったら
あの性格ですから
結構引きずっちゃうタイプですし

隠したい事、か。
自分はなんで嘘を吐いたんだろう

神谷優

ヤキモチを妬かせたかったから
違いますか?

橘杏子

ヤキモチ?誰に?

神谷優

そんなことも分からないんですか
結城に決まってるでしょう

橘杏子

なんで、あの人に
ヤキモチ妬かせたくなるんですか

神谷優

鈍感なあなたに質問します。
三秒以内に応えてください。
分かりましたか?

橘杏子

え!三秒!?

心の準備もできないまま、話が進んでいく

神谷優

一問目。
一番に思いつく異性は?

橘杏子

そんな・・・

神谷優

結城じゃないですか?

結城だったなんて言えやしない。
優くんの言った通り。つまり図星だ。

橘杏子

なんでそんなこと
聞くんですか?

神谷優

二問目。
その人の傍にいたいですか?

守りたい、これは
傍にいたいという内に入るのだろうか?

橘杏子

守りたい、とは思います。

神谷優

三問目。

神谷優

恋愛感情はありますか?

橘杏子

恋愛、感情・・・・

神谷優

進めない理由があるんですか

なんでこんなにも私の心が読めるのだろう。
凄いという驚きより
怖いという恐怖心の方が勝る。

橘杏子

もしや、エスパー・・・!

神谷優

貴方の表情が
分かりやすいからですよ

神谷優

それで、恋愛感情はあるんですか?

橘杏子

あるわけないじゃないですか
大人を舐めないでください

神谷優

一応、俺も大人ですよ?

橘杏子

まだ子供みたいなもんです!

神谷優

でも、年下を舐めてたらいけませんよ

橘杏子

そんなの分かってるよ

神谷優

これは、過去に年下と
何かあったな・・・?

橘杏子

恋愛感情なんて・・・

それぞれ複雑な事情を抱えながら、
杏子は歩み出すことができるかな・・・?

田中夏子

ごめんね、いつも

坂田結城

いつものことじゃん

それぞれ重い過去を抱えながら。

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