目が覚めて最初にした事は頭を抱える事だった。
目が覚めて最初にした事は頭を抱える事だった。
あああああああああっ!!
夢の中とはいえ
なに言っちゃてんだ私ーっ!!
夢の中での自分の言葉を思い出し、赤面してるのが鏡を見なくても分かるほど顔が熱い。
漫画やドラマじゃあるまいし
なんであんなこと言っちゃうかな
あの時は、ハクちゃんをどうにかしてあげたくて意識出来なかったけど、冷静になれば自分が口にした言葉の恥ずかしさに転げまわりたい。
家だったら転げてる
絶対恥ずかしさで
転げまわってる
間違った事をしたなんて思わないし、もう一度同じ場面に出会わせば、同じ事を言うだろうけど、それでも恥ずかしいものは恥ずかしいんだからしょうがないじゃないか。
なんて、恥ずかしさのあまり心の中で逆ギレ気味に騒いでいたら、隣のベットからかすかな音が。
お、起きちゃった……?
小さく声を上げ、おそるおそる周囲を囲うカーテンを開ける。
そこには、穏やかな表情で眠るハクちゃんが。
好かった……
もう、悪夢は見てないみたいだ
ほっと、力が抜ける。
達成感よりも何よりも、嬉しさがじんわり心に浮かんでくる。
本当に、好かった。
なんて喜んでいると、ハクちゃんは小さく寝返りを打つ。これって――
まずい、目が覚めかかってる
夢の中であれだけの事をしたのだ。そりゃあ目も醒めようってもの。でも、
ど、どうしよう!!
このまま目が覚めて
万が一にも私がここに
いるってバレたら――
ダメだ。恥ずかしさで死ぬ。というか殺せ。
夢の中ならともかく、現実世界で楽しくお喋りなんて出来っこない。これはもう――
逃げよう
こういうのはアレだ、戦略的撤退ってヤツだ。マンガで見たから知っている。
職員室に行って、先生には
気分が悪くなったって言って早退しよう
実際、心臓はバクバクするし、恥ずかしさで顔は赤いままだ。これなら大丈夫な筈。
そうと決まれば一刻も早くこの場から逃げねば。
勉強道具をかばんに詰めて、
これからは良い夢を見てね
小さく励ますように、まだ寝ているハクちゃんに言うと、一目散にこの場を後にした。
――そして、後には一人。
その一人も、やがて目を覚ます。
…………
彼女は目を覚ます。一人きりの保健室で。
けれど寂しさはどこにもない。夢の中で得た力強い温かさが、心をポカポカにしてくれる。
小さく、柔らかな笑みを一つ。
ついさっきまで見ていた夢を思い出し、嬉しくなったのだ。
少しぐらいの我儘なら
許してくれるかな?
夢の中で自分を励ましてくれた『彼女』の言葉を思い出し、弾むような軽やかさで小さく呟く。
たまには一緒に遊ぼう。昔みたいに。
今度は少しだけ我儘に、甘えてみよう。
勇気を出して今度こそ
ちゃんと最後まで言おう
そして更にもう一つ、彼女は決意する。
それは夢の中で出会えた『彼女』
もしまた『彼女』に会えたなら、
友達になろうって言いたいな
それは夢の中の出来事だと分かっていても、それでも、そう思わずにはおれない想い。
目覚めても見たい、夢だった。
その夢が叶うかどうかは、未だ分からぬ未来の先に。
それでも叶うのならば、好き夢を。
そう思える嬉しそうな笑顔を見せる彼女と、そんな笑顔を与えることの出来た、眠井朝華の活躍だった。