……

 こっそりと部屋を抜け出した皐矢は、玄関扉の向こうの景色に絶句した。







 天の川が落下してきたような、小さな光の大群衆が視界の端から端までを隙間なく覆っている。






これは……

 皐矢のつぶやきに、スマホのストラップとして復帰した九十九が胸ポケットから吊らされたまま解説する。

うじゃっとしたお客様の正体は、魂じゃな。問題は死霊か生霊か。生霊の場合は――

蛍って、こんなに早い時季から飛んでたか?
とりあえず写真撮ってSNSで拡散するかな。ここ、観光地としての魅力は皆無だからな。神社への参詣も増えるかな

……、お主、現実逃避したい時は全力疾走よな

 何か大体わかってきた、九十九がぼやいている時、スイっと光の一つが皐矢の顔の前に近づいてきた。

 思わずのけぞる皐矢と、光の球体の沈黙の対峙が始まる。

なんか、ツルツルかと思いきや、湯気みたいな光の筋が上がっていってるな

 そんなことを何となく思った時だった。

 あろうことか球体は、勢よく皐矢の鼻先にクリティカルヒットをお見舞いしたのだった。

皐矢!?

……

 硬式の野球ボールを顔面キャッチしたような強烈な痛み。

 そして、頭の中でふつりと何かが切れた。

……おおーい、皐矢?

 揺らめく怒気を感じ取ったのか、九十九が恐る恐る皐矢に様子を伺う。

 皐矢は顔から手を放して直立すると、自分を落ち着かせるように息を吐いた。

……ちょっと、虫取り網持ってくる

……。
一応聞いておくが、何をする気で?

実体があることはわかった。捕まえて明日の燃えるゴミに出してやる

いやコレ魂――!!

死霊であっても生霊であっても、丁重に扱うべきじゃあ!! 特に生霊の場合、身体と長時間離しておくのは危険じゃあ! 早く戻さねば!

……しっかし、この中から生霊だけ見つけて、しかも元の身体に戻すなんて――どうすれば出来る?

捕まえて明日の燃えるゴミに出してやる。

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