もし自分のように明かりを手に誰かが歩いていたら、きっとすぐわかる。
生家のあった国の中央、屋敷の並んだ一帯では、夜半にひとが出歩くことはさして珍しくなかった。
行商のものが行き、警邏の役人が行き、酒精に気をよくした酔漢も行く。
森はとても静かだ。
雨で湿った土は、コーラルの足音を吸収してくれた。
家に近づいたコーラルは、ランプの火を消す。
窓のなか、ひっそりとした明かりがあった。
出かける前に、コーラルが用意しておいた明かりだ。
そっとドアを開け、コーラルは足音を忍ばせて部屋に戻った。
靴についた泥を始末し、雨具を始末し、休む前にコーラルは窓から森を眺めた。
空はすっかり雲が切れ、こうこうとした月光が降り注いでいる。
あんなに暗かったのが嘘のようだ。
窓からうかがった森の姿に、明かりなどなくても不自由しないのでは、と思ってしまう。
雨のなかではなく、ただ夜間の散歩に出てみたい。
もし散歩が明るい昼のうちなら、その眺めはいったいどんなものだろう。
コーラルはため息をつきながら、部屋の明かりを落とした。
屋敷を出てから、どうやら自分はひどくわがままになったようだ。
以前はこんなにおもてに興味を持たなかったのに。
生家の周辺はにぎやかで、様々なものがあった。それらにコーラルは興味を持てずにいたのに、なにもない森への好奇心は強い。