通りすがりの探偵編
プロローグ

 夕方の東京湾は騒然とした空気に包まれていた。

 たったいまクレーン車が海中から引き上げた一個のドラム缶が事の発端だ。ついさっき東京湾の海底を清掃していた関東地方整備局の船が見つけた代物なのだが、問題はドラム缶そのものというより、想定されている中身の方だった。

 錆だらけのドラム缶の口はコンクリートで平らになって塞がっている。これでは中身を確認しようが無い。

どうするよ、これ

 操縦士が腕を組んで唸った。

中に絶対何か入ってるだろ

女子高生コンクリート詰め殺人事件を思い出しますな

 クレーン車を貸してくれた重機会社の責任者が渋い顔をする。

しかし、如何いたしましょう。
警察に通報するにしても
中身が分からないんじゃ……

でも、これが不発弾の類だったら下手に中を割る訳にもいかんしなぁ

悪趣味なモニュメントの不法投棄、
という風情でも無いですしな

取り越し苦労ならそれで良し。
そうじゃなかったら世紀の大発見。
どっちにしても疲れる話だよ、全く

 操縦士は躊躇いつつもポケットのスマホに手を伸ばした。

 この時、現場の人間は思いもしなかっただろう。

 海の底から発掘した不気味な物体が、想像を絶する大惨事に繋がっていたとは。

『通りすがりの探偵』編/プロローグ

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