帰り道の駅前。
帰宅をする人たちの喧騒を眺めながら、
あたしはおねえちゃんに聞いた。
ねぇ、おねえちゃん。
んー?
さっき言ってた、アタシが餃子を好きな理由、教えてよ。
んー…。
おねえちゃんは少し困ったような顔をして
押し黙ってしまった。
ルーツ
行きに苦労した坂に差し掛かった時、
小さいころ……
と、行先を見つめながら
おねえちゃんが口を開いた。
え……。
幼稚園に入ったぐらいの頃かね。
私とおかあさんでキッチンに立っていると、いつもアンタが来てねぇ。
おねえちゃんは視線を落とすと、
あたしの顔をちらりと覗き込む。
一緒にやりたいっていうんだけどさ、なかなかアンタにやってもらえる事がなくてね。
いつもおかあさんがアンタに謝ってたね。
……。
その日もアタシとおかあさんで、夜ご飯の準備をしてたら、アンタがやってきて駄々をこね始めたのさ。『アタシもやる!』ってね。
そしたら、リビングで新聞を見ながらそんなやり取りを見てたお父さんが……、
アタシもやるー!
やるのー!
ごめんね、理津子……。
今日は煮込み料理だから、
ちょっと難しいのよ。
リツ、おかあさんを困らせないで。
やだー!
アタシもいっしょにやる!
わーーーー!
……。
餃子を食べたい!
今日は餃子じゃなきゃ嫌だー!
ほぇ?
……って言い出したのさ。
びっくりしたよ、いつも落ち着いたお父さんが子供みたいに言っちゃってさ。
へー…。
おとうさんも餃子好きだったんだね!
アタシが好きなのは遺伝かな?
……でもね、私はそれまでおとうさんが餃子食べたの見たことなかったんだよね。
え?
おとうさんって餃子そんなに好きだったっけ?って思って、あとでおかあさんに聞いたら、
『お父さんは餃子はそんなに好きじゃないよ』
って言うのさ。
どういうこと?
ふふふ、どういう事かねぇ?
んー?
"コラム:みんなで餃子を作って楽しい週末!"?
それで、その日は急遽メニューを変えて餃子を作ることになったのさ。
みんなで餃子の材料を買ってきて、みんな包んで、ね。
へぇー……
おとうさん、思いのほか不器用で何枚も皮を破いて大変だったよ。逆にアンタはすぐにうまくなってたね。
うわ、また破っちゃった。
おとうさん、へたっぴー。
皮なくなっちゃうよ、おとうさん。
ふふふ、まだあるから大丈夫よ。
ギョーザ、ギョーザ、ぺたぺた。
リツ、餃子作るの楽しいか?
うん!たのしい!
みんなでギョーザ!
そうか、それは良かった。
その後、おかあさんは笑いながら『ちょっとヤキモチ。』って言ってたねぇ。
まあ、それからだねぇ。アンタが餃子を作るのも食べるのも好きになったのは。
そう言っておねえちゃんは
天を仰いで遠くを眺めた。
空は西日で赤く染まる。
そっか……そんな事があったんだね……。
ふとおねえちゃんを見ると、
その頬を一筋の涙が伝った。
乾いたアスファルトに落ちたその雫は、
丸い黒点を作る。
あ、ゴメン…
……なんで謝るのさ?
いや、なんとなく……
おとうさんやおかあさんの話をするとき、
おねえちゃんは少し苦しそうな顔をする。
一方のあたしは、全然その記憶が無い。
……おとうさんとおかあさんの顔も思い出せない。
幼稚園に入った頃の記憶って、そんなモノ?
つづく