帰り道の駅前。








帰宅をする人たちの喧騒を眺めながら、


あたしはおねえちゃんに聞いた。




あたし

ねぇ、おねえちゃん。

おねえちゃん

んー?

あたし

さっき言ってた、アタシが餃子を好きな理由、教えてよ。

おねえちゃん

んー…。








おねえちゃんは少し困ったような顔をして



押し黙ってしまった。



































































































ルーツ

















行きに苦労した坂に差し掛かった時、

おねえちゃん

小さいころ……



と、行先を見つめながら



おねえちゃんが口を開いた。



あたし

え……。

おねえちゃん

幼稚園に入ったぐらいの頃かね。

おねえちゃん

私とおかあさんでキッチンに立っていると、いつもアンタが来てねぇ。

おねえちゃんは視線を落とすと、


あたしの顔をちらりと覗き込む。

おねえちゃん

一緒にやりたいっていうんだけどさ、なかなかアンタにやってもらえる事がなくてね。

いつもおかあさんがアンタに謝ってたね。

あたし

……。

おねえちゃん

その日もアタシとおかあさんで、夜ご飯の準備をしてたら、アンタがやってきて駄々をこね始めたのさ。『アタシもやる!』ってね。

おねえちゃん

そしたら、リビングで新聞を見ながらそんなやり取りを見てたお父さんが……、






























りつこ

アタシもやるー!
やるのー!

おねえちゃん

ごめんね、理津子……。

今日は煮込み料理だから、
ちょっと難しいのよ。

おねえちゃん

リツ、おかあさんを困らせないで。

りつこ

やだー!
アタシもいっしょにやる!
わーーーー!

……。

餃子を食べたい!
今日は餃子じゃなきゃ嫌だー!

りつこ

ほぇ?



































おねえちゃん

……って言い出したのさ。

おねえちゃん

びっくりしたよ、いつも落ち着いたお父さんが子供みたいに言っちゃってさ。

あたし

へー…。
おとうさんも餃子好きだったんだね!
アタシが好きなのは遺伝かな?

おねえちゃん

……でもね、私はそれまでおとうさんが餃子食べたの見たことなかったんだよね。

あたし

え?

おねえちゃん

おとうさんって餃子そんなに好きだったっけ?って思って、あとでおかあさんに聞いたら、

『お父さんは餃子はそんなに好きじゃないよ』

って言うのさ。

あたし

どういうこと?

おねえちゃん

ふふふ、どういう事かねぇ?




























おねえちゃん

んー?
"コラム:みんなで餃子を作って楽しい週末!"?


























おねえちゃん

それで、その日は急遽メニューを変えて餃子を作ることになったのさ。

みんなで餃子の材料を買ってきて、みんな包んで、ね。

あたし

へぇー……

おねえちゃん

おとうさん、思いのほか不器用で何枚も皮を破いて大変だったよ。逆にアンタはすぐにうまくなってたね。
































うわ、また破っちゃった。

りつこ

おとうさん、へたっぴー。

おねえちゃん

皮なくなっちゃうよ、おとうさん。

ふふふ、まだあるから大丈夫よ。

りつこ

ギョーザ、ギョーザ、ぺたぺた。

リツ、餃子作るの楽しいか?

りつこ

うん!たのしい!
みんなでギョーザ!

そうか、それは良かった。

































おねえちゃん

その後、おかあさんは笑いながら『ちょっとヤキモチ。』って言ってたねぇ。

おねえちゃん

まあ、それからだねぇ。アンタが餃子を作るのも食べるのも好きになったのは。











そう言っておねえちゃんは


天を仰いで遠くを眺めた。






空は西日で赤く染まる。










あたし

そっか……そんな事があったんだね……。





ふとおねえちゃんを見ると、


その頬を一筋の涙が伝った。





乾いたアスファルトに落ちたその雫は、


丸い黒点を作る。





あたし

あ、ゴメン…

おねえちゃん

……なんで謝るのさ?

あたし

いや、なんとなく……


































おとうさんやおかあさんの話をするとき、






おねえちゃんは少し苦しそうな顔をする。







































一方のあたしは、全然その記憶が無い。









































……おとうさんとおかあさんの顔も思い出せない。


































幼稚園に入った頃の記憶って、そんなモノ?

































つづく

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