エヴァリーンには幼馴染がいる。
名はトール。昔、ミヒガン伯爵邸の隣の家に住んでいた、エヴァリーンと同い年の少年だ。
トールは、臆病で人見知りで、長い黒髪でいつも顔を隠して、俯(うつむ)きがちで歩いていた。近所の悪童(あくどう)に「根暗で陰気」と虐(いじ)められているのを、エヴァリーンが庇ったのが出会いだった。その日以来、二人は仲良くなった。
以来、毎日のように二人で陽が暮れるまで遊んだ。
トールは、変わらず臆病で引っ込みがちだったけれど、よく見ると所作の一つ一つが洗練されていてきれいだった。頭の回転も速いし、運動神経も悪くない。幼いエヴァリーンにも、彼が良い家で生まれ育ったことは窺えた。
トールは無口で、自分のことも家族のことも一切語らなかった。人づてに聞いた話だと、実家は王都にあって、事情で田舎の知り合いに預けられているらしかった。
そんな事情、子供だったエヴァリーンには、どうでも良かった。
ただ友達が増えたことが嬉しかった。
十歳の時、トールは王都にある生家に呼び戻され、離れ離れになってしまった。
八年経って、トールを名乗る美青年が、エヴァリーンの元を訪ねてくるなんて思いもしない。