教員

えーとじゃあ次、沢口ー

女生徒

は、はい!
私の名前は沢口――

先生が名前を呼び、
それに応じて自己紹介をするシステム。
順序は、あ、から始まる名前順らしく、
少しだけほっとした。

席順がランダムなせいで、
いつどのタイミングでくるかわかりづらい。
けど、圭の方が先に呼ばれるのは確実。
とりあえず落ち着いていこう。

教員

次は……出席番号16番、
春野有希

有希

はいっ

今までの誰よりも明るく、
大きな声で返事をした人を無意識的に見ると、
茶髪のよく似合う、かわいい子だった。

有希

どうも初めまして!
春野有希です。
みなさん、急なんですが聞いてください……!

朝日のような声音が、
若干シリアスな雰囲気を纏う。
なんだなんだと耳を傾けたのは僕だけではなくクラス中。

……

圭は興味ないみたいだけど……。

有希

私、CDを自作したんですっ
どうかもらってください!

…………

女生徒

…………

男子生徒

…………

女生徒

…………

何を言うかと期待を込めた視線は、
何を言ってるんだと疑問を孕んだものへ。

なんだかんだでいい流れを作っていた自己紹介の空気は死に、
彼女――春野さんすら、顔をまっ赤にしてそれを実感しているようだ。

まずいぞ……。
このままだと、僕は重すぎる空気に潰されるっ

え、えっと……

快?

……僕、一枚もらおうかな

ざわりと、揺れる教室。
当然これは、彼女が欲しくておこした行動じゃない。
純粋な気持ちで、この空気がいたたまれなくなっただけだ。

男子生徒

じゃ、じゃあ俺ももらうかな!

女生徒

私も一枚っ

僕に続き、多くのクラスメイトが春野さんの周りに集まっていく。

良い流れが、出来たのかな?
よかった……。
けど、心拍数が偉いことになってしまった。

くそ……自分の順番が来たときに緊張しようと思ってたのに。

有希

ありがとうございますっ

いえ……こちらこそ

CDを受け取る手が、やたらと震えた。
というか僕、女の子と話すこと自体、
かなり久しぶりじゃないか……?

…………圭、浮かれてる?

そんなことはない

すけべ

だからそんなんじゃないって

教員

よーしお前らもういいか?

周りから人集りが消えると、
ニコニコと微笑む春野さんが見える。

ああ、本当によかった。
僕には真似できない自己紹介だからな……。
もし失敗してしまったらと考えたら可哀想過ぎる。

そして先生は、続けた。

教員

次は――日浦圭

ただ名前が呼ばれただけで、
黄色い悲鳴が教室に響き渡るって……。

……

面倒臭そうに立ち上がり、
ゆっくりと口を開いた。

ホームルーム――自己紹介

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