ルールとしては簡単。先に解けるかどうか、それだけだ。
ルールとしては簡単。先に解けるかどうか、それだけだ。
解けるんすか、これ?
ある程度質問には答えますから
んー……といってもなー
フレイスは早くもあきらめ気味に視線をさまよわせている。クローバーシリーズを全て何度も読みこんでいる私としては外すわけにはいかない。
ステルス魔法とかじゃねえんだよな?
クローバーの世界観は魔法がないので
あっ、そっか……
そう、だから魔法というのは真っ先に捨てていいはず。ということは魔法以外の手で考えればいいはず。今こそアキス先生の口癖を借りよう。
まずは違う線から、消していけばいいですよね
私は顎に手を当てながら考える。
……フレイスはなにか案ありますか?
俺?んー……、普通に考えたら金目当てっていうのじゃねえのか?
うん、そっか。じゃあ金目当ての線は消せそうですね
ちょっ、なんで?
やっぱりフレイスに尋ねておいてよかったと息を吐く。そっちの方で考えられていたなら一生かかっても解けそうにないだろう。
フレイスは有名な絵画を誰にも知られずに売る方法をしっているですか?
そういうことか……。いわれたら、そうだな
ウンウンと頷く。誘拐事件などは人身売買が目的で誘拐するなんてごくまれだ。
はい、次なにかありますか?
俺の事をエサにしようとしてる?
まさか、面白い案ができそうだなと思っているだけです
にっこりと笑って、いいから早くしろと訴えかける。
うーん……動機になりそうなものは……、注目されたかった?
注目、ですか。それはあり得ますね。リスク高すぎる気もしますけど
リスクが高いほど燃えるというやつじゃ?
うーん……。でも先生っぽい作風じゃないですし
だいぶメタな読みではあるけどもクローバーシリーズでそういった動機が描かれたことは無い。どれも犯人に同情すべきような点があることが多かった。
ん?ということは……。
なにかつかめたような顔しましたね
かなりメタな読みなんですけど……。この三人に何か関係は?
……お見事。全員幼馴染です
幼馴染、ですか
正直予想より込み入った設定だったので驚く。もうすこし浅い関係だと思っていたのだが。
……んー、というかどうやって持ち出したのかというのも問題だよな
確かに。普通に考えれば警備員が一番持ち出しやすい気がしますけど
因みに警備員の方ですが発見時刻である5時の直前、4時45分に出勤しています。それ以前にここに来た様子はありません
っつうと?
フレイス、本気で言ってるんですか?15分という短い時間で絵を持ち帰る、もしくは隠すなんてほぼ不可能です
あぁ、なるほど
ちなみに絵には鍵がかけられていて簡単には持ち運べません。その鍵は館長と副館長が管理しています
。もちろん、発見時も鍵は金庫内に厳重に管理されていました
それは警備員の犯行がかなり難しいということを表していた。
鍵師ってのも鍵があってのものだろ?一人じゃ難しいよなぁ
投げやり気味にフレイスがつぶやく。もはや諦めモードということか。フレイスにとってしたら女性を紹介するというやりとりでしかないから大したうまみもないということかもしれ―――。
もしかして……
ん?
はい?
全て書けたかもしれません、このミステリー
私は顔を上げて頭を整理する。うん、これなら不可能ではない。フレイスも先生も私を注目している。
まず一つ目、あらかじめ館長が鍵を盗み出しておきます、それを写真に撮り鍵師に渡して鍵は元に戻します
写真?
はい。鍵なんて元の写真があって鮮明に映っていればよほど難しい物でない限り複製できます
へー
しかも熟年の鍵師となれば難しいものも複製しやすくなるだろうという読みもある。
なるほど、面白い推理です。ですが鍵師も館長も。盗み出すタイミングはありませんよ?
警備員です。唯一あるの。警備員は鍵を使い盗み出してから裏口に向かい、鍵師か館長に渡します。その後かえって盗まれていると騒ぐ
……しかし、絵を盗み出すのはあまりにも目立つと思いますよ?
目立たないんです。おそらくその絵、万華鏡とセットの小さい絵なんじゃないんですか?
……お見事。そうですね、犯人が三人の共犯だとわかった時点で、アリスさんたちの勝利としましょう
パチパチと手を叩く。
よしっ
ヤリィ
私達はグッと拳を握る。というよりフレイスはなにも……、まあ一人じゃ無理だよなという言葉から連想できたわけだからよしとしようかな。
でも、ちょっと動機もわかってます
なんですか?
万華鏡夕日を警備員の病状の奥さんに見せたかったんじゃないんですか?そしてその病状の奥さんというのも幼馴染なんじゃ?
お見事です。そのとうり病状の妻は美術に興味のある人でした。そして幼馴染グループのマドンナ。結果的に警備員が結婚しましたが今でも親交があり館長はそんなマドンナと張り合おうとずっと美術の勉強をしてきていたからその流れで美術館にも努めていたんです。まあ、僕のネタばらしを持って仮説が本説となったとしましょう。そして
シャープペンシルの回転を止めてアキス先生は鞄を漁る。
まず、アリスさんへのご褒美です
これは
クローバーシリーズ全てです。一応持ち歩いているんですよそして
キュッキュとサインを書いて私に差し出す。
どうぞ、お持ち帰りください
ありがとうございます
先生、俺は?
あー、そうですね。では
と喋り始めた所で扉のノックの音。その後にティーチ氏が顔を出す。
すべて終わりましたー
彼女は、どうでしょうか?
えっ……
固まるフレイス。予想の斜め上だったらしい。私は小さく笑いをかみしめる。
私が、どうかしました?
ちょっとしたゲームをしててそのご褒美に女性を紹介してと頼まれたので、僕の身の回りで紹介できそうな人としてオススメしてたところなんですけど
まあ、そうだったんですか。勝手にもう
少し怒った様子を見せるがまんざらでもなさそうだ。だけど、無理だろうな……。私は笑いをこらえながら説明する。
先生、ティーチさん。実はフレイス、浮遊魔法の女性にコテンパンにされて以来トラウマなんです
あー、なるほど
わ、私は……って、フレイス?あっ!見たことある人だと思っていたら!
えっ?
ティーチ……?げっ!?
見つめあうフレイスとティーチ氏。次はポカンと私とアキス先生が見つめあうこととなった。