本屋というのは大抵は静かなものだけど、今日は少し賑わっていた。その賑わいには私も加担していることは言うまでもない。

フレイス

というか、どうして俺も

アリス

お手伝いしてくださいと頼んだら『いいよ』といったじゃないですか。だからです

フレイス

てっきり『クレフ』の内装だと思ってたからなんだけどな

アリス

なんだかんだ文句を言いつつもついてきてくれるのは嬉しいですよ。ほら、次です

フレイス

はいはい


フレイスのどこか面倒くさげな返事を後ろに聞きながら私達は歩みを進める。

アキス

次の方……あっ

アリス

こんにちは。お願いします

アキス

……はい、ありがとうございます

私は笑顔でフレイスの事件の時に必死に書いていた最新作のクローバーⅦを差し出す。そして後ろのフレイスも同時に。これは個人用と店に置くようの二つだ。

そしてフレイスを引っ張ってまで来たのは今日、ここでアキス先生によるサイン会が開かれるからだ。

キュッキュッと手慣れた様子でサインを書く。

アキス

はい、どうぞ

アリス

ありがとうございます。それでは

アキス

あっ、待ってください

アリス

えっ?


呼び止められたと思ったら後ろを振り返り誰かを呼んでいる様子。そして出てきたのは。

ティーチ

なんですか?あっ


ティーチ氏が私の顔を認めて驚いた顔をしてから理解の感情を広げる。

アキス

彼女たち……あとで……

ティーチ

はい、わかりました

こそこそと耳打ちをするアキス先生。それからティーチ氏は前に出てきて私達に微笑みかける。アキス先生はサイン会を再開している。

そういった人たちに聞こえないように声を潜めて尋ねる。

ティーチ

この後、お時間ありますか?

アリス

はい。フレイスは?

フレイス

空いてるよ

ティーチ

でしたら、少々控室でお待ちくださいませんか。20分ほどでサイン会も終わりますし

アリス

なるほど。わかりました。フレイスもいいですか?

フレイス

うん、問題ないよ

ティーチ

では、こちらへ


ティーチ氏に案内されて普段は入れない店の裏側、そこに用意された部屋に行く。

ティーチ

少々お待ちください。お茶などはご自由に

アリス

ありがとうございます

フレイス

あざっす


私達は頭を下げてティーチ氏を見送る。

アリス

思いかげずだったな

フレイス

本当に。というかさっきの人は?

アリス

フレイスはしらないですもんね。アキス先生の担当編集者さんです

フレイス

へぇー。あの美人さんがね


と、少し笑いながら頬をつく。

アリス

……そういえば、浮遊魔法の使い手だそうですよ

フレイス

浮遊……。マジか


何かしでかす前にくぎをを指しておく。フレイスの女癖の悪さはよく知っている。

変にマスクもいいし、口もうまいからか女性関係にも強い。私も最初の最初は口説かれたものだ。

アリス

マジです。変なことはしないように

フレイス

アリスも言うようになったよなぁ。最初の謙虚さはどこにいったのか

アリス

フレイスが茶化してばかっりだからじゃないですか?

フレイス

それを言われたらたまっともんじゃないな


フレイスは肩をすくめると机に上に置いてあった茶菓子を手に取り口に運んだ。

アリス

フレイス、本は汚さないようにお願いします

フレイス

わかってるって

アリス

本当でしょうか?


疑いの目を向けながら本の世界へと移行する。この世界は本当に親近感がわくようで、それでいてファンタジーと呼べるような世界だった。

魔法も無ければ警備隊もない。代わりに警備隊は警察と呼ばれてたり、SFのような機械が魔法がないことによる不自由さを解放する。

アリス

本は色々と見せてくれる

ここにきて初めてはまった本ともいえるこれは私から時間という概念を忘れさせていていた。それを戻したのはひかえめなノックの音だった。

アリス

はいー、どうぞー

ティーチ

お待たせしました。サイン会の方おわりました。先生も次期に―――あっ

アキス

お待たせしてすみません。アリスさんと……フレイスさん、でしたっけ

フレイス

はい、フレイスです。貴方が、アキスさんですね

アキス

はい。以後、お見知りおきを

フレイス

こちらこそ、よろしくお願いします


笑顔で握手を交わす二人。ほんと、外面だけはいいフレイスは人につけ込むのが上手い。

ティーチ

私は後片付けなどをしてきますのでごゆっくりどうぞ


ティーチ氏は頭を下げてこの場から立ち去る。というか、年齢は知らないけど……何歳なんだろうか。アキス先生のクローバーシリーズ、発表が3年前。その時には編集者として立派に働いていることになるんだけど。

アキス

にしても、驚きましたよ。お二方がこられて

フレイス

俺はアリスに拉致られただけなんすけどね

アリス

せっかくのサインをいただけるチャンスでしたし、フレイスには“快く”協力していただきました。ですよね?フレイス

フレイス

……はぁ


私の問いかけには答えず失礼にもため息だけをついてきた。アキス先生もそれ以上は深く突っ込まず笑って話題を変える。

アキス

なるほど、そうでしたか。そういえば、クローバー、読んでくださったんですか

アリス

はい、まだ一章の途中ですけど

フレイス

あー、俺も少し。前半も前半ですけどね


クローバーは連続する物語ではあるものの、一つ一つの事件はオムニバス方式のような形を採用している。そのためフレイスのような途中から読み始める人もキャラや世界観さえ簡単に理解できていれば問題ないともいえる。

アキス

でしたら……ちょっとしたクイズといきましょうか。これを見抜けたら、そうですね。これからクローバーの新刊、すべてクレフに寄贈いたしますよ。もちろん、サインつきで

アリス

本当ですか!?


ガタッと音を立てて椅子から立ち上がる。

フレイス

あ、アリス?

アリス

フレイス。謎解きしますよ

フレイス

こうなったら、止められないからなぁ。俺のうまみがほとんどなさそうだけど……。そうだ、先生

アキス

なんですか?

フレイス

俺の褒美といいますか、先生。俺に紹介できる女友達いますか?

アキス

ご紹介、ですか……。くすっ、わかりました。私が知る中で一番美人な片をご紹介しましょう

フレイス

やーりぃ


パチンと指を鳴らすフレイス。一瞬だけ冷たいまなざしで睨む。けど、私としてもどうしても譲れないものがある。ここはフレイスと共闘。

アキス

それでは、クローバーシリーズから問題です。実はこの第一章の窃盗事件。ボツにしたトリックもありました。それについてお話しします。そのトリックを見事見破れるかどうか、です

アリス

なるほど。わかりました

フレイス

了解

アキス

それでは、問題です


ピンと指を立てて説明を開始する。

アキス

被害者は国立美術館。被害物は『万華鏡夕日』という絵です。窃盗されたと思われる時間は深夜2時から早朝5時。その根拠は深夜2時に警備員が確認している点。そして早朝の5時も同じく警備員が確認したさい盗まれていることが発覚されました


細かな点が違うけどこれは第一章と大筋は同じだった。違う点は犯行時刻や発見したのが警備員である点などだ。

アキス

さて、今回は絞らせていただきましょう。容疑者は三名。一人はこの美術館の館長です。二人目はこの近くに住む鍵師。三人目は定年間近の警備員。この警備員は前述した窃盗の第一発見者です

アリス

どうしてこの三名と?

アキス

監視カメラにこの三名がそれぞれ違う時間帯に国立美術館の入り口近くに映っていることが確認されたことからです。その他にもありましたが今回は割愛します

館長、鍵師、警備員か。どれもミステリの犯人になりやすそうな人たちだな。

アキス

それぞれ館長は大学入学を目前としたお嬢様、鍵師は最近離婚し、警備員は病状の妻がいました。捜査を続けていると事件発生から三日後。なんと、万華鏡夕日が返されたのです。なぜ盗まれ、返されたのか。その謎を解いてみてください

フレイス

ヒントがすくないなぁ

アリス

解けるんすか?

アキス

ある程度の質問には答えていきます。お二人は警察、もしくは探偵辺りを軸に事件を解決に導いてください


そしてニッコリと笑って私達に放つ。

アキス

この事件。非常に興味を踊っていただければなと思います


どこから取り出したのかシャープペンシルをくるりんと回した。

pagetop