バナナルームのドア越しに唇を噛み締めながら項垂れる中年店長に1万円札を握らせ、
小暮はヌッとカウンターに近づく。
ありがとう。イイ余興だった。これはご祝儀と口止め料
バナナルームのドア越しに唇を噛み締めながら項垂れる中年店長に1万円札を握らせ、
小暮はヌッとカウンターに近づく。
PC隣の経華の履歴書に煙草の火をつけ、
灰皿にそっと置いて店を出た。
清々しく経華は目覚めた。
体中がポカポカしていつもの重い腰や肩もじわりと軽かった。
かつて父の治療と一緒に何度かマッサージや接骨院で受けた事があるが、
それらとは違う柔らかな暖かさが体の芯から出ていた。
鏡の前に立ってみると両肩の高さが揃い、
寝起きにも関わらず左肩のブラ線も安定していた。
おお、すごいすごい!
思わずその場でピョンピョンとジャンプする。
揺れる胸元。
それでも肩で粘るブラジャーライン。
待てよ、寝起き?しまった!
経華は軽快なフットワークでバナナルームを出てカウンターに向かうと、項垂れた中年店長がそこにいた。
店長申し訳ありませんでした!!がっつり寝てしまいました!あの、先輩はどちらにいらっしゃいますか?
俺が言うのもなんだけどさ、あの男には関わらないほうがイイと思うよ。あとその、申し訳ないんだけど今回の内定はなかったという事で
えー!どうしてですか!私何でもしますから
だからさ…いい加減気づいてくれないかな
中年店長は経華にPC画面を覗かせる。
そこには面接で経華が話したプロフィールとボカシ入りの履歴書写真とエロエロ紹介文
これが真っ当な整体院に見える?それでも入ってくれるなら止めないけどさ。ていうかこれ一本で一発ヤラせてくれない?
先ほど小暮にもらった一万円をスケベ顔で差し出す中年店長。
てめえの血は何色だあ!!!
ぎ、ぎぴゃあ!!
経華は女性的本能でいつもより軽快な肩回りから繰り出されるグーパンチをお見舞いして逃げた。
ひーん!ひーん!
全速ダッシュの中、
経華は悔しくて、
何だかわけが分からなくて涙が出そうだけったが、
体が健康過ぎてどうもセンチな気持ちになりきれないでいた。
息が切れて橋の袂に寄りかかり、
ただ流れる隅田川とそこに映る町の灯りを眺めながら今日の出来事を頭で整理していた。
とりあえず101社目の不合格!
一方、
経華の二つ向こう側の橋の手すりに寄りかかり、
中南海を吸いながら独り小暮は携帯をいじり、
経華の写真を削除していた。
そして不意に吹き出した。
野暮な事は何もしちゃいないよ、とか。
何言ってんだ俺。
第一章
モーフ・ザ・キャット
お終い