織原経華

ZZZ…

ドアからは中年店長が顔を覗かせた。

店長

どうでしょう“研修”の具合は?Gカップ楽しんでますか?あれ、すいません服着てるってことはまだこれから?

小暮忍

どうもこうも、アンタの期待するような野暮な事は何もしちゃいないよ。一応、俺も整体師の端くれだからね。ところで俺が言うのも難だが、この子の事はもう構わないでやってくれないか?会社間違ってココの面接に受けに来たこと知ってたんだろう?

店長

何のことですか?彼女はウチの面接に来た女の子ですよ。これから店長の私がしっかり手取り足取り教育していきますよ。何も知らない生娘のようですからねえ。ぐへへ

小暮忍

だから、さっきから俺は知らないままでいさせてやってくれと言ってるんだよね。つまり、内定を取り消せと言っているんだ

店長

ふざけんな。お前にそんなこと言われる筋合いは無い!さっきから調子に乗るな、むっつり整体師!

小暮忍

…今、商人が客をお前呼ばわりしたね。上等だ。いいよ、俺が悪かった。今からそこの交番に行って、この店が不法滞在のチャイナガールに違法中出し本番させてると通報してくるよ。もうグレーな客じゃない俺は善良な民間人だからな

店長

どこが善良だ!ギャンブル崩れが片手間にエロマッサージしてるだけじゃねえか!デカい面すんじゃねえよバーカ

続けて罵ろうとした瞬間、

中年店長は首根っこを掴まれ、

宙に浮いた足をばたつかせた。

小暮はハッとして手を放す。


地面に墜落した中年店長はゲホゲホと咳き込む。

店長

殺す気か!

小暮忍

わるい。この体格差はフェアじゃないな。じゃあ、ギャンブル崩れらしくシンプルな賭け事で話をまとめようと思うんだけどどうだ?今寝てる彼女が次どっちに寝返りを打つか?

店長

…左のおっぱいが傾いてて重いから左だ。昔の女がそうだった。この道20年の俺の目に狂いはない

小暮忍

何の道だか知らないけどオーケー。俺は右だと思う。アンタが勝ったらこの子を好きにしなよ。負けたら俺の言う通り内定取り消しだ

寝息を立てる仰向け寝の経華を二人の男はじっと見た。


左を向けばこちら側に背を向けることになり、

右を向けばこちら側に顔を向けることになる。

店長

ついでにもう一つ約束してくれよ、小暮さん

小暮忍

何だい?

店長

俺が勝ったらアンタこの店出入り禁止な

小暮忍

おっかしいな。超優良顧客のつもりだったんだけどねえ

そんな小競り合いをしている間、

経華が唸って動いた。

織原経華

…う~ん

店長

左だ、左来い、あっちむけホイ!!

小暮忍

うるさいなあ。起きたら勝負にならないから黙れよ

経華の体はとこちら側、

つまり右に寝返りをうった。


一つボタンの外れたブラウスから覗かせる胸元の谷間がまぶしく映る。

店長

小暮さん、あんたなんか仕組んだろ?

小暮忍

いや、何もイカサマはしちゃいないさ。彼女の背骨のクセがそうなってるだけだ。側弯症といって背骨が胸骨の辺りで、右に湾曲している。これは普段、右肩を下に、重心が引っ張られているから形成されたものだと推測できる

店長

クソ!何か腑に落ちないなあ


お気に入りのタバコ『中南海』を咥える小暮。


顎で

小暮忍

火をつけろ

と店長に目くばせする。

店長

チッ!!

舌打ちと共に点いた中年店長の100円ライターの火は完敗という名の狼煙に姿を変えた。


続く

モーフ・ザ・キャット その5

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