フロストは色々と計画を練っているようだけど、
何か問題があるみたい。
すごく深刻そうだけど、何なのかな?
フロストは色々と計画を練っているようだけど、
何か問題があるみたい。
すごく深刻そうだけど、何なのかな?
問題って?
町を出る以上、
誰かが人質に取られるだろう。
それを誰にするかという
ことなんだが……。
あ……。
――そういえば、そうだった。
町の外で都合の悪いことを喋らないよう
人質を取られるんだった。
だからフロストは
言いにくそうにしていたのね……。
もしかしたら、
伯爵の部下に命を狙われる場面が
あるかもしれない。
人質である以上、
その可能性は否定できませんな。
危険が及ばないよう、
部下たちも動くつもりだ。
だが、100%の安全は
保証できないんだ。
みんな俯いて黙ってしまった。
重苦しい空気がその場を支配する。
――でもそれも当然だよね。
伯爵にとって都合の悪いことを
私たちはしようとしているんだもん。
つまりもし対応が遅れたら、
酷い目に遭うのは確実なわけで……。
その役目、私に任せてください。
アーシャ……。
沈黙を破ったのはアーシャだった。
微笑を浮かべ、
真っ直ぐフロストを見つめている。
私はなんとなく、
アーシャが人質になるって
言い出すような予感がしていた。
素直で一座想いの、いい子だから……。
――そしてそれが分かっていて
事前に止められなかった自分が嫌になる。
最低だ、私……。
皆さん、
自分を責めないでください。
苦しんでくれただけで
私は本望です。
っ!?
周りを見回すと、
座長もアルベルトもアランも、
苦悶の表情を浮かべていた。
そっか、みんなも私と同じように考えて、
言い出せなくて、
それで自己嫌悪しているんだ……。
皆さんの表情を見れば分かります。
むしろすぐに私が
言い出していれば、
皆さんを苦しめずに済みました。
ごめんなさい。
なんで謝るのっ?
アーシャが悪いわけないっ!
そうだよっ!
オイラは……オイラは……っ!
いいえ、私は最低です。
自分の不安を解消するため
皆さんを試すようなことを
してしまった。
えっ?
ずっと不安だったんです。
本当に私は皆さんから家族だと
思われているのか、と……。
お前……。
人質には私が最適なこと、
私が誰よりも分かってますから。
即座に申し出るのが
当たり前のはずじゃないですか。
ふむ……。
皆さんは悲しんでくれた。
苦しんでくれた。迷ってくれた。
すごく嬉しいです。
私のことを本当に家族だと
思っていてくれたって
確信できました。
そんなの当たり前でしょっ!
バカっ!
でも私は人間じゃないんですよ?
私はアルベルトさんの魔力で動く
『パペット』なんですよ?
なんだってっ!?
アーシャはアーシャよっ!
私はボロボロと涙を流しながら叫んだ。
そしてキョトンとしているアーシャを
強く抱きしめる。
最初は体を強張らせていたけど、
彼女はすぐに力を抜いて
私を優しく抱き返してくる。
私は幸せ者です。
この世に生まれてきて良かった。
いえ、皆さんの家族で良かった。
……アーシャ、人質の役割を
お前に頼んでもいいか?
もちろんです。
私は体に埋め込まれた
魔法玉さえ無事なら
『死ぬ』ことはありませんから。
あえて『死ぬ』という言葉を使い、
照れくさそうに笑うアーシャ。
私たちにとっては『死ぬ』なんて
物騒でネガティブな言葉だけど、
アーシャにとってはすごく素敵な言葉なんだ。
――だって生きていると認識するからこそ、
死ぬってことも意識するんだもの!
それに私は座長やアルベルトさん、
ミリアさんと違って
興行に必ずしも
必要というわけではありません。
でもいくらアーシャだって、
万が一のことがないとは
言い切れないのよ?
そうですね……。
魔法玉が傷付けられてしまう
可能性はゼロではありませんから。
でもこういう場合は確率的に
リスクの一番低い選択をするのが
当たり前です。
私に任せてください。
だからって有無を言わさず
押しつけちゃうの、
オイラは気が引けるよ……。
アランさん、優しいですね。
アーシャ、
絶対に無謀なことはしないでね?
命に別状がなかったとしても、
怪我をしただけで
みんな悲しむんだから。
ミリアの言う通りだ。
お前は俺たちの家族。
それだけは絶対に忘れるな!
――はいっ!
元気に返事をするアーシャ。
普段はあまり表情を変えないけど、
今はすごく嬉しそうな顔をしている。
こんなに豊かな表情が出来るんだもん、
アーシャは人間だよっ!
私には何か役割ってないの?
いいえ、何かさせてほしいの。
私ね、今のやり取りを見ていて
心の底からあなたたちを
信用できた。
ハミュン……。
それじゃ、興行をしている時に
変な動きをしているヤツがいないか
監視していてもらえるかな?
鳥の姿なら
警戒されないだろうしね。
うんっ! 分かった!
まずは町での興行だな。
これを成功させることが
全ての始まりだ。
私、明日は朝から
チラシを配りに行くわ。
アコーディオンの演奏をしながら。
それなら二手に分かれて配ろう。
僕はフルートを演奏しながら
町を回るとしよう。
私とアランはフロスト様の
お供をしましょう。
アルベルトとアーシャは
ミリアの方を頼む。
私はその間、
空から町の様子でも探ろうかな。
ハミュン、正体がバレないように
気をつけてね。
うんっ!
こうして私たちは一段と結束を深めた。
雨降って地固まるって感じかな?
あとは目的を達成するため、
一丸となって前へ進むだけなんだからっ!
次回へ続く!