フロストは色々と計画を練っているようだけど、
何か問題があるみたい。


すごく深刻そうだけど、何なのかな?
 
 

ミリア

問題って?

フロスト

町を出る以上、
誰かが人質に取られるだろう。
それを誰にするかという
ことなんだが……。

ミリア

あ……。

 
――そういえば、そうだった。

町の外で都合の悪いことを喋らないよう
人質を取られるんだった。


だからフロストは
言いにくそうにしていたのね……。
 
 

フロスト

もしかしたら、
伯爵の部下に命を狙われる場面が
あるかもしれない。

ルドルフ

人質である以上、
その可能性は否定できませんな。

フロスト

危険が及ばないよう、
部下たちも動くつもりだ。
だが、100%の安全は
保証できないんだ。

 
みんな俯いて黙ってしまった。
重苦しい空気がその場を支配する。


――でもそれも当然だよね。


伯爵にとって都合の悪いことを
私たちはしようとしているんだもん。

つまりもし対応が遅れたら、
酷い目に遭うのは確実なわけで……。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

アーシャ

その役目、私に任せてください。

ミリア

アーシャ……。

 
沈黙を破ったのはアーシャだった。
微笑を浮かべ、
真っ直ぐフロストを見つめている。



私はなんとなく、
アーシャが人質になるって
言い出すような予感がしていた。

素直で一座想いの、いい子だから……。


――そしてそれが分かっていて
事前に止められなかった自分が嫌になる。


最低だ、私……。
 
 

アーシャ

皆さん、
自分を責めないでください。
苦しんでくれただけで
私は本望です。

ミリア

っ!?

 
周りを見回すと、
座長もアルベルトもアランも、
苦悶の表情を浮かべていた。


そっか、みんなも私と同じように考えて、
言い出せなくて、
それで自己嫌悪しているんだ……。
 
 

アーシャ

皆さんの表情を見れば分かります。
むしろすぐに私が
言い出していれば、
皆さんを苦しめずに済みました。
ごめんなさい。

ミリア

なんで謝るのっ?
アーシャが悪いわけないっ!

アラン

そうだよっ!
オイラは……オイラは……っ!

アーシャ

いいえ、私は最低です。
自分の不安を解消するため
皆さんを試すようなことを
してしまった。

ミリア

えっ?

アーシャ

ずっと不安だったんです。
本当に私は皆さんから家族だと
思われているのか、と……。

アルベルト

お前……。

アーシャ

人質には私が最適なこと、
私が誰よりも分かってますから。
即座に申し出るのが
当たり前のはずじゃないですか。

ルドルフ

ふむ……。

アーシャ

皆さんは悲しんでくれた。
苦しんでくれた。迷ってくれた。
すごく嬉しいです。

アーシャ

私のことを本当に家族だと
思っていてくれたって
確信できました。

ミリア

そんなの当たり前でしょっ!
バカっ!

アーシャ

でも私は人間じゃないんですよ?
私はアルベルトさんの魔力で動く
『パペット』なんですよ?

フロスト

なんだってっ!?

ミリア

アーシャはアーシャよっ!

 
私はボロボロと涙を流しながら叫んだ。

そしてキョトンとしているアーシャを
強く抱きしめる。


最初は体を強張らせていたけど、
彼女はすぐに力を抜いて
私を優しく抱き返してくる。
 
 

 
 

アーシャ

私は幸せ者です。
この世に生まれてきて良かった。
いえ、皆さんの家族で良かった。

ルドルフ

……アーシャ、人質の役割を
お前に頼んでもいいか?

アーシャ

もちろんです。
私は体に埋め込まれた
魔法玉さえ無事なら
『死ぬ』ことはありませんから。

 
あえて『死ぬ』という言葉を使い、
照れくさそうに笑うアーシャ。


私たちにとっては『死ぬ』なんて
物騒でネガティブな言葉だけど、
アーシャにとってはすごく素敵な言葉なんだ。


――だって生きていると認識するからこそ、
死ぬってことも意識するんだもの!
 
 

アーシャ

それに私は座長やアルベルトさん、
ミリアさんと違って
興行に必ずしも
必要というわけではありません。

ミリア

でもいくらアーシャだって、
万が一のことがないとは
言い切れないのよ?

アーシャ

そうですね……。
魔法玉が傷付けられてしまう
可能性はゼロではありませんから。

アーシャ

でもこういう場合は確率的に
リスクの一番低い選択をするのが
当たり前です。
私に任せてください。

アラン

だからって有無を言わさず
押しつけちゃうの、
オイラは気が引けるよ……。

アーシャ

アランさん、優しいですね。

ミリア

アーシャ、
絶対に無謀なことはしないでね?

ミリア

命に別状がなかったとしても、
怪我をしただけで
みんな悲しむんだから。

アルベルト

ミリアの言う通りだ。
お前は俺たちの家族。
それだけは絶対に忘れるな!

アーシャ

――はいっ!

 
元気に返事をするアーシャ。
普段はあまり表情を変えないけど、
今はすごく嬉しそうな顔をしている。


こんなに豊かな表情が出来るんだもん、
アーシャは人間だよっ!
 
 

ハミュン

私には何か役割ってないの?
いいえ、何かさせてほしいの。

ハミュン

私ね、今のやり取りを見ていて
心の底からあなたたちを
信用できた。

ミリア

ハミュン……。

フロスト

それじゃ、興行をしている時に
変な動きをしているヤツがいないか
監視していてもらえるかな?

フロスト

鳥の姿なら
警戒されないだろうしね。

ハミュン

うんっ! 分かった!

アルベルト

まずは町での興行だな。
これを成功させることが
全ての始まりだ。

ミリア

私、明日は朝から
チラシを配りに行くわ。
アコーディオンの演奏をしながら。

フロスト

それなら二手に分かれて配ろう。
僕はフルートを演奏しながら
町を回るとしよう。

ルドルフ

私とアランはフロスト様の
お供をしましょう。
アルベルトとアーシャは
ミリアの方を頼む。

ハミュン

私はその間、
空から町の様子でも探ろうかな。

ミリア

ハミュン、正体がバレないように
気をつけてね。

ハミュン

うんっ!

 
こうして私たちは一段と結束を深めた。
雨降って地固まるって感じかな?


あとは目的を達成するため、
一丸となって前へ進むだけなんだからっ!
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

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