頭を上げたフロストは、
私たちの顔を1人ずつゆっくりと眺めていった。

まるで心の準備でも促すかのように……。


否が応でも私の緊張感は高まっていく。
 
 

フロスト

実はバサール伯爵のことについては
内々に調査をしていたんだ。
なかなか尻尾を出さないやつだから
苦労したけどね。

フロスト

ようやく彼のやっている悪事が
真実だと確信した。
でも決定的な証拠が手元にない。

ルドルフ

なるほど、それを掴むために
フロスト様は一座に加わり、
ここまでやってきたわけですな?

フロスト

協力者を捜していたところ、
キミたち一座を見てね。
協力者になってくれると感じた。

フロスト

もちろん、僕の部下に一座のことを
色々と調べさせたけどね。

アルベルト

っ!?

ミリア

アルベルト、
急に顔色が悪くなったみたい。
何かあるのかな?

フロスト

大丈夫、
それを話すつもりはないよ。
伯爵と繋がっているか否かを
確認するために調べただけだから。

 
フロストは視線をわずかに
アルベルトへ向けて言ったような気がした。

それを聞いて
アルベルトも少しホッとしたみたいな感じ。
彼の過去に何かあるんだろうか?



アルベルトと出会ったのは5年前。
私が座長に引き取られた時にはすでに
彼は一座に加わっていた。

私が10歳で、アルベルトは13歳。
彼も座長が引き取った子だということは
聞いている。
でもそれ以外のことってほとんど知らない。



もしかしたら、
それよりも前に何かがあって、
そのことを知られたくないのかも……。
 
 

ルドルフ

だからといって、
過去を勝手に調べられるというのは
気分があまり良くありませんな。

フロスト

申し訳ない。そのことは謝るよ。
いつか必ず報いるつもりさ。

ルドルフ

そうですか。

アルベルト

……俺は現状で満足している。
それだけは言っておくぞ?

ルドルフ

アルベルト……。

フロスト

分かっているさ。
アルベルトや座長の気持ちはね。
安心してくれ。

アルベルト

……それならいい。

ミリア

何なの、座長たちの反応?
ちょっと気になるなぁ。

 
私は心にモヤモヤを抱えつつも
今は黙っておくことにした。


もし何かあるなら座長たちはいつかきっと
話をしてくれるはずだから。

黙っているということは、
まだその時じゃないってことだもん。



頭の中を切り替え、
私はフロストに別の疑問をぶつける。
 
 

ミリア

フロスト、あんた何者なの?
末っ子王子って身分は詐称なの?

フロスト

いや、僕は正真正銘の王子さ。
ただし、世間のイメージは
意図的に作られたものだけどね。

フロスト

僕は国王直属の
諜報組織を束ねている。
僕は王族の中で
疎まれていたわけじゃない。
そう演じていたんだ。

ミリア

えぇっ!?

フロスト

そうすることで、僕を担いで
謀反を起こそうとする者や
良からぬことを考える連中が
色々と寄ってくるからね。

アルベルト

相当な数のヤツらが
トラップに引っかかっただろうな。

 
冷めたような口調で言い放つアルベルト。

するとフロストは苦笑いを浮かべながら
指で頬を掻く。
 
 

フロスト

数はご想像にお任せするよ。
かなりの膿が出せたとだけ
言っておく。

アルベルト

それでどうするつもりなんだ?
証拠を掴んだとしても、
町から出られないんじゃ
どうしようもないぞ?

フロスト

ふふふ、その辺は考えてある。

ミリア

でしょうね。
フロストが何の考えもなしに
こんな危険なことを
するはずないもの。

フロスト

その通り。
僕のことをよく分かってるね。

ミリア

で、具体的にどうするわけ?

フロスト

決定的な証拠を掴みたい。
そのためにみんなには
興行を行ってもらう。

ミリア

うんうん、それで?

フロスト

税金が徴収されれば
納税証明書が発行される。
それを手に入れるのが
1つ目の計画だ。

ミリア

まだ何かあるの?

フロスト

キミたちの腕なら
町で興行をすれば伯爵の耳にも
評判の声が届くだろう。

フロスト

おそらく伯爵の屋敷で
興行をすることになる。

ミリア

おそらくって……。

 
私が頭を抱えていると、
フロストはしれっと悪戯っぽい笑みを浮かべる。
 
 

フロスト

あはは、ゴメン♪
――っていうか、
そうなるように手を打ってあるっ♪

ミリア

こいつはぁ~っ! 
おちょくるのも
いい加減にしなさいよねっ!

フロスト

だからみんなにはその時、
最高のパフォーマンスで
興行を成功させてほしい。

アルベルト

バーカ! 俺たちはいつでも
最高のパフォーマンスで
興行をしてるんだよ。

フロスト

ふふ、それは失礼。

フロスト

そのあと、一座はライカントで
興行をするという流れになる。
あとは僕の部下たちに
任せてもらえればいい。

フロスト

でも、問題が1つあるんだ。

 
急にフロストが真面目な顔になった。
そして腕組みをして項垂れてしまう。


――問題って何なのかな?
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

第28幕 フロストの真の目的

facebook twitter
pagetop